終焉狂想曲　NO.222｜リアクション

終焉狂想曲　NO.222

　血の深紅だ、と思った。
　空を満たし、見慣れた街をまるで見知らぬ異世界のように変貌させて見せるその光を。
「……何だこれは」
　部屋の窓硝子に貼りつき、三夜暗は呻く。
「世界が……！？」
　腐った鱗を撒き散らす竜、額の捩れた角に雷宿す一角馬、黒衣翻し大鎌振り回す死神。紅光を浴びて、幻獣たちが空に舞う。アスファルトを割って噴出す黒煙に紛れ、ひとの大きさもある甲虫の群が這い出す。
　窓の外、逃げ惑う人々を蹴散らして大百足が爆走する。それは正に、
『世界が終わります』
　居間のテレビから聞こえてきた声に、暗は窓の外に見入ったまま黒い瞳を見開く。
　窓に映る己が漆黒の瞳が、髪が、赤い光に染められ炎の色を宿す。
「く、……くくく、そうか……！」
　この深紅は己が力の色だ、と直感する。
　炎の色に光る己が瞳を片手で抑え、暗は苦しげに笑う。
　世界の崩壊の原因を瞬時に理解して、真実を言葉とする。
「そうか、俺の力の封印が解けてしまったのか！」
　ずっと前から、己について研究に研究を重ねていた。その独自研究によって解明した真実、それは、己こそがこの世の神と呼ぶべき存在であるということ。
（もっとも、）
　神であるが故に、力は封印している。その膨大な力を不用意に使わぬよう、自身にも容易に解放できぬ難解な方法で。そうでなければ、今この自分に特別な力がない理由が説明出来ない。
　そう、この己がただの凡人の筈がない……！
　暗は終焉迎えた世界を見つめる。
　己の力の封印が不完全だった為に、己にも制御出来ぬ力が暴走したが故に、己の力によって世界が破壊されて行く。
　確かに腹の立つ世界ではあった。許せない事も多々あった。けれど、今この時を迎えたからこそ解る。
（俺はこの世界が大好きだった！）
　いくら悔いても悔い切れぬ思いに、暗は呻く。糞兄と呼びながらも確かに己が兄である三夜雷一を、最愛の弟を、母を想う。
（……済まん）
　己の力が故に滅ぼうとする世界を前に、家族に詫びる。
　胸に渦巻く悔恨と懺悔を振り払い、暗は固く閉ざしてした窓を開く。後悔していても始まらない。
　家族のために、この世界のために、
（やり遂げねばならん）
　暴走する己の力と再契約し、世界を復元せねばならない。
　暴風雨に似て、己が眷属たるもの共の咆哮が雪崩れ込む。世界を崩壊させる己が力の凄まじさに、暗の身体は震えた。
　近所の家を破壊して回っていた巨大な獣人が赤い空に向けて理解不可能な言葉で喚く。空気を震わせる轟きは、獣人の周囲に炎を生み出す。渦巻く炎が地面に爆ぜ、周囲に熱風と炎を撒き散らす。
　爆風に家が軋む。屋根瓦が剥がれて飛ぶのか、ガラガラと恐ろしげな音がする。世界を復元するよりも先に家の下敷きになっては敵わぬ。暗は窓から外に飛び出す。
　炎が渦巻く庭に飛び降りるなり、世界の神たる威厳を示すべく、精一杯に胸を張る。
「魔物達よ！」
　小さな少年の姿した『神』を見つけ、巨大な獣人が牙を剥き出して歓声を上げる。塀を踏み潰し家の壁を軽く蹴破り近づく獣人に、暗はうっかり怯えそうになる心を奮い立たせる。
「我が声に答えよ！　俺は汝らの主なるぞ！」
　己の力が発現した際に唱えようとずっと考えていた言葉を発する。その先の契約手続きは全くもって判らないが、後は魔物達が然るべきように動いてくれるはず。
（俺はその通りにするだけでいい）
　何と言っても、彼らは己が力の一部であるのだから。
　獣人が恭しげに手を伸ばす。巨大な手に胴を掴まれ、その余りの力の強さに顔を顰めながら、暗は勝ち誇った笑みを浮かべる。そう、きっとこれでいい。
　目の前で獣人が赤い口を開く。それでも暗に恐怖は無い。
（そうか、一度喰われることで魔物共を内側から転生させてやらねばならんのか）
　面倒ではあるが、仕方がない。これも世界の神たる己の宿業というもの。
（まあ、世界を再構築する時に俺の体も作り直せばいいな）
　暗は静かに瞼を閉ざす。
　さらば、この俺が愛した世界。けれど悲しむことはない、それはほんの僅かの間だけなのだから――

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あとがき

担当マスター：阿瀬春
ファンレターはマスターページから！

　お待たせいたしました。
　終末の世界（の夢）、お届けにあがりました。

　突然突きつけられた死に臨んでのみなさまの生き様や想い、できるだけ詰め込んで描かせて頂きましたつもりです。
　みなさまのアクションに少しでもお応えできておりましたら幸いです。

　読んでくださいまして、ご参加くださいまして、ありがとうございました。

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