授業風景～倫理の時間の場合～｜リアクション

授業風景～倫理の時間の場合～

＜維都月茉菜の場合＞
　維都月は堂々とした態度で壇上に立つと、冷静な態度で発表を始めた。
「まずは、今回は『不殺生』の為、まずそちらで思い付く理由を考えました」
　彼女は黒板の左側に理由を書き出した。

［駄目な理由］
　１．被害者の親族、及び関係者が悲しむから
　２．殺人者側が、自分の人生を生きながら、仮の未来に被害者が起こしたであろう利益影響行為を自分で補う事が出来ないから

「１は感情論の為、これ以上の説明は出来兼ねます。２は例として……」
　維都月は再び黒板に文字を書き出した。

　被害者は将来、『世界経済を動かす規模の存在となるはずだった』
　→加害者には『そんな力無かった』

「この場合に、加害者は被害者の持ち得ていた役割の大規模な損失を補えない存在となります。これが行えないのに、殺害を試みるには余りに無責任と言わざるを得ません」
　ここまで語っておいて、維都月は黒板の左側に『？』を書き足した。
「しかし、私は『不殺生』自体に疑念を抱いています。全ては状況によるのではないかと。ですから、私はこの言葉を提示します」
　彼女は半紙に書いた言葉を掲げた。
【質量計算】
「これは駄目な理由の２に関連した話となります。この言葉を直訳すれば……」
　維都月はひと呼吸を置いてから言葉を発した。
「生きていて、未来の明るい可能性のある人物の将来を食い潰す位ならば、対象者は死ねという理論です」
　にわかに教室内が騒がしくなった。
「……随分と、乱暴なお話ですね」
　眉尻を下げる中野先生に、維都月は悪びれもなく答えた。
「無論、これは個人裁量です。この価値観は、独裁者を生み、また殺人鬼を生み出す可能性もあります」
　内心、彼女は自嘲する。
（以前は、私の病気でお父様の足を引っ張り、財を潰した挙句、我が家が没落していった……）
　本来なら入院したら戻ってこれないであろうというほどの維都月の病状なのだが、今では日常生活を問題なく過ごせるほどまで回復した。
　しかし、それも完治ではないということを彼女自身が理解している。
（私が生きている間、可能な限りお父様の役に立つようにしたい）
　彼女は猫とカラスの両方の神を裏切った。
（……これ以上、カミサマの好き勝手になんかさせないんだから）
　乗り気でなかった父親の事業を次ぐ意欲を見せている。
　自分の家の復興は『普通』に戻すための１つの手段なのかもしれない。
「以上となります。ありがとうございました」
　最後まで冷静な態度を崩さなかった彼女。
　維都月の発表する姿は、どこか生まれ変わったような印象を生徒たちと中野先生にもたらすのだった。