怪人セブンの復讐｜リアクション

怪人セブンの復讐

　エレノアがろっこんで壁面に取っ掛りを作っている矢先、頭上から水滴が降ってきたことに彼女は気がついた。
「なんでしょう？　雨、じゃないですね……？」
　次第に壁面に水が滴り始めてくる。
「……まさか、水が流れ込んできているのでしょうか？」
　エレノアがま上を見上げた次の瞬間……。
　地表の穴のすぐ下付近、四方から滝のように水が吹き出して流れ込んできた！
「……注水口は穴のすぐ下か、あそこを分解したら登るのが困難になるな……」
　八神は注水口を潰して水の浸入を防ごうと思い立ったが、水の勢いを鑑みるに水流で押し出された瓦礫が人質たちに降り注ぐ危険性のほうが大きいと判断した。
　先程は上手く全員回避できたが、今度は頭を強打して大怪我をしかねない。
「あたしたちを溺死させるつもりか……！」
　全身を打ち付ける水圧。
　朝鳥が思わず上を眺めた。
「えっ？　なにこれ？」
　そして見てしまった。
　朝野の触手を命綱にして、エレノアがくっつけた瓦礫によじ登る人質たちの姿を。
「何が起こってるの……！？」
　朝鳥には目の前の光景が理解できない。
「き、きっと極限状態で幻覚が見えるのよ……、そうに違いないわ……」
　気のせいだと思い込み、朝鳥は壁を登ることに集中する。
　だが、水位は急激に上昇。
　最初にエレノアが作った足場は、今や水没寸前だ。
（もっと高い場所に足場を作れたら……）
　レンガの破片を接着するエレノアの表情が曇る。
　今のペースでは足場設置の作業が間に合わない。
「朝野さん、私を触手で持ち上げて下さい！　そこの人は私にシールを！」
「自分から触手プレイを希望するなんて……！」
　発情した朝野の触手がちょっといやらしい感じにエレノアの肢体に絡み付いた。
「ああ、エレノアさんの肌って凄く滑らかで柔らかい……！　触手だからあんなトコとかそんなトコが触れても仕方がないよね！」
「朝野さん、その理屈は違うと思う……」
　恵御納は冷静にツッコミを入れた。
　そして名前を知らないエレノアに対して、シールを張ってあげながら自己紹介。
「あと、僕はえみな・かーさだよ、えっと……」
「エレノアとお呼び下さい」
　エレノアの自己紹介に、恵御納は首を傾げる。
（あれ？　記憶が戻ったのかな？　言い方が自然すぎるような……？）
「どうかしましたか？」
　訝しがる恵御納に、エレノアが微笑む。
　恵御納は小さく首を横に振った。
「ううん……、そういえば１学期に雑巾がけレースやったの覚えてる？」
「……それがどうかしたのですか？　今は思い出話を語る時間はありませんよ？」
　エレノアの返答に、恵御納はただ先程よりも大きく首を横に振るだけだった。
「いや……ほら、あの時も水浸しだったから……、ごめんね、関係なかったね……」
　エレノアの体重を軽くした恵御納は、もう一度だけ首を捻った。
（なんだろう……？　すごく、嫌な感じがする……）
　恵御納は１つ、引っ掛かっていた。
　記憶を失ったという彼女が、何故すんなりと１学期の出来事を『思い出話』と言えたのだろうか？