酒は飲んでも飲まれるな｜リアクション

酒は飲んでも飲まれるな

「ふう、とんでもない人に会ってしまいました……」
　椿美咲紀は、帰り道を急いでいた。また変な人に捕まってしまってはかなわない。
「ニャー」
「あれ、猫ちゃん……」
　しかし、誘惑は道端に転がっていた。再び野良猫に手を伸ばす美咲紀。外に長居することが災難を呼ぶ状況なのだが、ほろ酔い加減の頭では気づかない。はたして、美咲紀の背後には黒い影が忍び寄ってきていた。
　いきなり腕を掴まれた美咲紀は、恐る恐る振り返る。
「ここにも、うさぎさん……」
　周囲の全てがうさぎさんに見えてしまう状態になった、行梨謡だった。
「うさぎさんもふもふ！」
「キャーッ！誰か助けて！」
　しかし、幸運にも、今度は悲鳴を聞いてくれる人がいた。
「待て、そこのお前！オイラの行動範囲で、不埒な行為はさせねぇ！」
　猛ダッシュで駆けつけた琴櫻輝之助は、そのままの勢いでハイキックを食らわせる。
「う……うさぎさん、激しい……」
　謡は、そのまま仰向けに伸びた。
「助かった……ありがとうございます」
「いいよ、気にすんな。それにしても、どうしても思い出せねえ……考えてたら疲れちまった」
「え？」
　その場に体育座りの姿勢で座り込む輝之助に、美咲紀は困惑する。
「だ、大丈夫ですか？」
「うん、ただ眠いだけ……ちょっと寝かせて……」
　輝之助は、そのまますやすやと寝入ってしまった。

「良かった、皆さんここにいたんですね！」
　やっとのことで公園にたどり着いた綾辻綾花は、牛瀬や理事長の周りに人が何人かが集まっているのを見て、すこし安心した。
「牛瀬先生、理事長先生も……大丈夫ですか？牛瀬先生の方は、お酒は平気ですか？」
「ワシは酒には弱いが、なんとか意識はある……それより理事長が完全に潰れとる」
「あらあら……こんなに飲むなんて、何かあったんでしょうか？」
「いや、わりといつものことやな」
「う～ん、あまり飲み過ぎないようにしてもらいたいですね。こんなところで寝ちゃうなんて駄目です。牛瀬先生も」
　矛先は牛瀬にも向いた。
「一緒にいたなら、止めてあげてください。飲み過ぎは体に悪いですよ」
「……面目ない」
「お仕事も大変だとはおもいますけど。ここに飲み物がありますから、飲んでください」
　さっき月影倖に分けてもらったペットボトルだ。ここで、牛瀬の横にいた少女―――七緒璃音が口を出した。
「助かったよ、さっき飲み物買いに行った子がなかなか戻らなくて……」
「ちょうど良かったです。水分を取って、安静にして。顔が熱いから、濡らしたハンカチで冷やしましょう」
　綾花はてきぱきと、酔っぱらいの介抱を始めた。
「……ところで、この方は一体どうしたのでしょう？」
　綾花が指さしたのは、理事長に抱きついて寝ている宮祀智瑜だった。
「ああ、理事長に甘えとるうちに寝てもうたんや。その子も頼む」
「……。色々あったようですね……」
　綾花は、深くは突っ込まないことにした。