「う~い、牛瀬センセ、もう一軒行くわよ~」
「理事長、もうそんくらいにしときなはれ。まだ夕方やで、全く」
寝子島高校理事長・
桜栄 あずさと教諭・
牛瀬 巧は、旧市街を連れ立って歩いていた。正確に言うと、牛瀬先生がしたたかに酔った桜栄理事長を支えながら歩いていた。
「学校は休みだから平気、平気。いや~、さっきオヤジさんが開けてくれた焼酎は強烈だったね~」
「……ワシが飲めない体質なんはわかっとるでしょうが。飲んどるのは理事長だけでっせ」
どうやら、気まぐれに飲みたい気分になった理事長に、牛瀬先生が運悪く捕まったらしい。
「やれやれ……どうしたらええやろか。ん?」
牛瀬先生が自分の体の異変に気づいたのはその時だった。
「あれ? ワシはほとんど飲んどらんはずやのに……」
そう、なんとなく頭がくらくらし、足がもつれる。まるで酒に酔ったかのように。
「……また、神魂が暴走したか」
牛瀬先生の心の中に響く声。そして目の前を横切る一匹の猫。
テオドロス・バルツァだった。
「な、なんや……」
「そいつ、神魂の宿った酒でも飲んじまったんじゃないのか。どうも周囲の人間まで、無差別に酒が入ったのと同じような状態になっちまってるぜ」
「んな、アホな……これはどうしたら治るんや」
「さあな。そいつの酔いが覚めれば、自然と収まるだろう」
「そうならええんやが……あっ!」
牛瀬先生は重要なことに気づく。
「無差別に酔った状態になるっちゅうことは……学生も含まれるんかい!」
「そうなるな」
テオはそっけなく答える。
「アカン、それだけはまずい!」
なんとかしようと足掻く先生。しかし、体は言うことを聞かない。
「そこのベンチにそいつを寝かせて、酔いが覚めるのを待つんだな」
テオは一言言い残し、去っていった。
桜栄理事長の飲んだお酒が原因で、「(割と広い範囲の)周囲の人間がアルコールの入ったような状態になる」というとんでもない事態になりました。未成年も含め、前後不覚に酔ってしまいます。
騒動は、理事長の酔いが覚めれば収束します。今は夕方なので、たぶん夜には戻るでしょう。さて、あなたは怒り上戸でしょうか、泣き上戸でしょうか、それとも笑い上戸でしょうか。ほんのわずかな時間、浮世を忘れるのも悪くない!?