酒は飲んでも飲まれるな｜リアクション

酒は飲んでも飲まれるな

「あー、面白かった」
　栗原瑞穂は、ようやく椿美咲紀から手を離した。抵抗に疲れた美咲紀は、地面にうずくまったままだ。
「うう……私、もうお嫁にいけないです……」
　相手が困っているのが楽しいので、抵抗が止まったら解放されるのだった。
「ふー、他に面白いこと、ないかしら。あっ」
　瑞穂は次のターゲットを見つけた。多少危ない足取りながらもなんとか歩いている少年―――津島直治だった。
「う～ん……誰か、助けて……」
　苦しげにうめき声を立てる瑞穂に、直治はすぐに気がついた。
「あれ？大丈夫ですか？」
　心配した直治が瑞穂の肩に手を触れた瞬間。
「キャーッ！」
「ひっ！」
　突然の悲鳴に、直治は思わず手を引っ込める。
「あなた私に触ったでしょ！何するの！」
「……いや、僕はちょっと心配しただけで……」
「セクハラよ、セクハラ！」
「お、大声は出さないでください！何か不快だったら謝りますから……」
　予想外の反応に慌てふためく直治。その様子が、内心おかしくてたまらない。
「きゃはは、面白ーい！」
この子、からかいがいがありそう。不運な直治は、困惑するばかりだった。

「ねぇ、雨君……」
「どうしたん？」
　花風ももの問いかけに、頼木雨は優しく答えた。
「大好きな人にキスするのって、こんなに幸せなのね。好きよ、大好き」
「僕も―――ももさんが大好きや。そうやって笑ってくれるなら、なんだってできる。あはっ」
雨は笑った。
「内緒にしとこ思てたんやけど、なんか、口が軽なってしもとるな」
「僕、雨君のこと、もっと近くに感じたいの……」
　ももは、ブラウスのボタンに手をかけた。雨がそっと制する。
「どうして止めるの？」
「ここではあかんよ」
「どこなら、お洋服を脱いでいいの？そこへ、僕を連れてって……」
　返答がわりに、雨はももを抱きしめた。
「これはきっと神魂のせいや。僕はももさんの本当の気持ちだけを聞きたい」
「もっと抱きしめて……僕、ずっとずっと雨君と一緒にいたいの……」
「その言葉は、きっと嘘やないな。僕からも、本当の気持ちを言うわ。―――僕は世界で一番、君を愛しとるよ」

　小島海美をベンチに寝かせ、月影倖は一息ついた。もうあたりは薄暗くなってきた。海美が回復したら、家の近くまで送ってあげよう。
「あれ？」
　倖はこちらに近づいて来る少年に気づいた。歩けてはいるが、足取りはしんどそうだ。やはり酔っているんだろうか？
「君、大丈夫かい？」
　声をかけられた志波拓郎は、若干スローモーション気味に答える。
「うん、大丈夫……でも、暑いし、のど乾くね……」
　拓郎は、ランニングシャツを脱ぎ始めた。
「えっ？」
　倖は困惑した。気温はだいぶ涼しくなってきている。この人の酔い方は、こういうものなのか。
「あれ？倖お兄ちゃん、なんでまた目隠しするの？」
「……えっと、ちょっと待っててね」
　海美の目のところにハンカチを乗せると、倖は拓郎を止めることにする。
「こんなところで脱いだら、風邪引いちゃうよ？」
「大丈夫、鍛えてるから。うん、すこし、涼しい……」
　拓郎の姿は短パンに上半身裸。そしてリストバンド。明らかに不審者である。彼の頭の片隅で、これ以上脱ぐと兄にもっと似るぞ、という理性の警鐘が鳴っているので、これ以上は脱がないが、それでも不審者である。
「なんか、楽しくなってきた……水浴び、したいな……」
「駄目だよ、本当に風邪引くし、なにより職質受けちゃうよ！」
「大丈夫、今は夏だから……」
　大丈夫、という言葉の理由付けが意味不明になってきている。
「プールか噴水、探す……」
「待って―――あ、行っちゃった」
　海美を放って追いかけるわけにもいかず、倖は心配しつつもその場に残った。