大怪獣襲来！～寝子島防衛戦～｜リアクション

大怪獣襲来！～寝子島防衛戦～

●仄暗い海の底から

　寝子島という名の島がある。神奈川県湘南地方、木天蓼市に浮かぶ小さな島だ。
　たくさんの猫が暮らしており、そこから猫島――寝子島と呼ばれるようになったと言われている。
　本土まで約１キロのこの島は、海や山などの自然に恵まれ、リゾート地としても有名である。

　だが、そこでの閑静で穏やかな生活が、正体不明の侵略者たちによって破壊されようとしていた。
　直立する巨大なサンマとそれに随伴する小サンマの群れ――

　それらが太平であることを願って名付けられたコバルトブルーの海を波を蹴立てて北上し、着実に寝子島へとその歩みを進めていた。

「ギョギョッ、ギョギョギョー！」

　聞く者を不快にする人ならざる叫び声をあげて進軍するその集団を構成するものどもは、ぬらぬらした鱗に覆われた細長い魚の身体から人のような手足を生やし、直立したその異形の姿は古い映画や怪奇小説で語られた忌まわしき半魚人を彷彿とさせた。
　およそ人間と相互を理解し尊重し合う関係は結べそうにもない、異様で気味の悪いオーラをまとっている。

「想像以上に敵の数が多い……まるでオマハ・ビーチに押し寄せる連合軍だな……」
　手にしたトランシーバーで各方面からの準備状況や報告を聞きながら、海岸を見つめ防衛作戦の指揮を執る天衣祭の唇が自嘲するかのように歪んだ。
　身に纏った旧軍の軍服が海からの風になびく。

　打ち寄せる波をかき分け、苦もなく異形の軍隊は寝子ヶ浜海岸に押し寄せ、その侵攻を食い止められるもの等どこにもいないかのように思われた。
　ついに半魚人の一群が海岸にその異形を晒し、砂浜にその不気味な足跡を刻む――

　バチッ！
「ギョギョーッ！」　

　突然先頭を歩いていた半魚人が叫び声を上げて昏倒し、波打ち際に倒れた。
　同時に周辺に焦げ臭い煙と異臭が漂う。

「謎の化物とはいえど、あらゆる攻撃に耐える無敵の存在という訳ではないようだな」

　御剣刀が上陸予想地点に先回りし、仕掛けておいた車のバッテリーを利用した電気の罠を作動させたのだ。
　半魚人も高圧電流を身に受ければ、普通の生き物ののようにショックや痛みは受けるようだ。
　突然の出来事に何が起きたのかと、半魚人たちの間に混乱と動揺が巻き起こり、彼らの歩みが滞った――
　刀はその隙に連続で罠を作動させるが、今度は少しばかりの半魚人を叫ばせ、飛び跳ねさせるにとどまる。
　よほど罠の至近でもなければ、昏倒させる程の大きなダメージは与えられないようだ。

「くっ、この方法では効率が悪いか――」

「だったら俺に任せて！」

　声と共に空から降ってきた小さな影が、半魚人の一団の中に激しく砂を巻き上げながら着地を決めた。
　影は半魚人が反撃の態勢を整えるより早くその懐に潜り込み、次々と足を払い、重心を崩し、投げ飛ばし、突きや蹴りでうち倒す。

「技も効くし、触った感触ではお化けやロボットって訳でもないようだね」

　半魚人たちを見据え、残心の構えをとりながら言うのは奈良橋博美。
　ろっこん『トンビの飛翔』によってもたらされた人知を越えた跳躍力で一気に飛んで来たのだ。
　小柄でボーイッシュななりだが、こう見えて奈良橋流古武術の使い手。彼女から溢れる気迫に半魚人たちの歩みが止まり、周辺に一時の空白が生まれた。

　その隙にと博美は半魚人の後方に目を凝らす。
　彼らの後方に位置するのは波を蹴立てて接近する巨大サンマ。周辺に他の存在は見てとれない。

「何かに追われている訳じゃないようだね。彼ら自身の意思でやってきたのかな？」

　だが、その問いに答えるものは誰もいなかった――

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