大怪獣襲来！～寝子島防衛戦～｜リアクション

大怪獣襲来！～寝子島防衛戦～

●バーストアウト

「やーい、のろまのろまー、こっちだよ～っだ♪」

　ろっこん『ALL IN ONE』で犬の耳と尻尾を生やした戌井創が半魚人たちへ石を投げて挑発しながら砂浜を駆け回り、素早い身のこなしで襲いかかる半魚人の攻撃を右へ左へかわす。

「変なところに目ーつけちゃって、それってちゃんと前見えてないんじゃないの？　欠陥？」

　ちょろちょろ目障りに動き回る創を追いかけて半魚人たちの歩みは混乱し、砂浜を右往左往するばかり。

「こちら、屋敷野。どーぞ」

　屋敷野梢はトランシーバーで仲間たちと連絡を取り合って状況を確認すると、八神修から手渡されたガソリンタンクを身に付け、目を閉じてジャンプした。

　梢のろっこん『胡蝶の夢』が、梢の姿を一匹の小さな蝶に変える。
　戦いの場をひらひらと舞うその姿は非常に不安定で危うい。
　しかし、梢は恐怖を押し殺し、巨大サンマへとまっしぐらに向かって行く。

（見たところ、着ぐるみというより、本当の巨大生物みたい……）

　梢は生物部部長として身に付けた観察力を総動員して、巨大サンマの生態を観察する――

　体表のぬめりや、脈動する様子、そして波を蹴立て、砂浜に巨大な足跡を残す様から、『それ』は投影された映像や、非実体の幽霊のような存在ではなく、確かにそこに存在する物だというように思える。
　しかし、このような生物の存在は現実には知られていない事も事実である。
　ならば『これ』は、今まで知られていなかった所からやって来た存在なのだろうか？

　観察を続けていると、やはりオリジナルのサンマさん同様、足元の視界はあまり良くなく、移動速度はそれほど速い物ではない。どうやら周囲の半魚人の先導を受けて進んでいるように思われた。
　それがこの巨大サンマと半魚人をどうにかするための手がかり・足がかりになるかもしれない。

　得られた推論を胸に梢はさらに巨大サンマへと近付く。
　巨大サンマの足元では仲間が戦い、その侵攻を喰い止め、注意を逸らしてくれている。
　巨大サンマも半魚人も先頭の混乱の中で、小さな蝶に気を払う様子はない。
　今なら巨大サンマの頭部に接近し、ガソリンを流しこめる――

（まったく、はた迷惑なー！　化物は消毒ですよー！）

　どこを見ているのか分からない大きく虚ろな瞳が不気味に空を見つめている。
　ガソリンを投下するには一旦変身を解除しなければならない。
　本来他人や生き物を傷つける事は嫌う彼女だったが、寝子島を守るため、やむを得ないと絞り出した決断であった。

（巨ンマさん……ごめんなさい……）

　巨大サンマの死角を探し、背後から頭部への着陸を狙って滑り込む。
　なんとか無事に顔に貼りついた梢はガソリンを取り出すためにろっこんを解除した。

「あっ……！？」

　濡れて切り立った断崖。ゆっくりとはいえそれは移動し、大きく揺れている。
　そこは蝶の姿の時には分からなかったが、人が立つには恐ろしく不安定な場所であった。
　危ないと思った瞬間、梢は足を滑らせ、その身体は宙に放り出された――

　彼女の身体は真っ逆さまに落ちて行く。

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