伝説のジャンボらぁめん｜リアクション

伝説のジャンボらぁめん

　寝子島神社の境内で日課の剣術練習を終えた御剣刀は、どこで昼を食べようかと表参道商店街を歩いていた。
（一昨日は『猫島軒』で食べたから今日は『はらべこ』にするか）
　確か今日から辛うまジャンボラーメンをやっていたはずだ。名案に自然と足取りが軽くなる。
　がらりと『はらべこ』の引き戸を開き、店に入った刀は早速注文。
「おじさん、辛うまジャンボラーメン！」
「応よ！」
　威勢の良い源次郎の声を聞きながら、刀は店内を見回した。そこには見知った顔がいくつかある。
　と、刀に向けられたのは舞華のマイク。
「あれ、檜扇さん。何してるんだ？」
「本日取材中でして。辛うまジャンボに挑戦するのでしたら名前とコメントをお願いします」
　そういうことなら、と刀はカメラを見る。
「御剣刀。剣術の練習で腹減ってるから食べきれるはずだ」
　しっかりとコメントし、刀は利平と竜也の間に座った。刀に気づいた利平が軽く手を振る。
「握、いいペースだな。あともうちょっとで食べきれるんじゃないか？」
「そのあとちょっとに苦戦してるんだけどな」
　苦笑交じりに利平は答え、最後のチャーシューに挑む。
「後木も頑張ってるな」
「このペースなら、完食できそうなのだ……っ！」
　懸命に真央は麺を手繰る。
　その二人の健闘の様子を見た刀はこれ以上話しかけるのはな、と自分のラーメンを待つ。そしてゆっくりと白米と辛うまジャンボを食べている竜也に気づいた。
「ええっと……」
「黒滝竜也だ」
「俺は御剣。黒滝は一日コースか？」
　辛うまジャンボラーメンに挑む者でも一日をかけて食べる者達のことを、客達はそう呼んでいた。これも夏の『はらべこ』ならではだ。
「時間制限がないからな。ありがたいよ」
　寮暮らしを始めたため、少しでも実家の負担を少なくしたい竜也。ここでラーメン一年間無料券を手に入れれば、食費を浮かせられる。
「ああ、確かにそれはありがたいよな」
　和やかに雑談することしばし。刀の前に巨大丼が置かれる。
「頂きます」
　手を合わせてから刀は割り箸に手を伸ばす。ずずっと麺をすすり、スープを一口。いつもながらに美味しいと思う。
　同じ商店街にある『猫島軒』が魚介ベースなのに対し、こちらの『はらべこ』は鶏ガラベース。うまく住み分けができている。
　涼しい顔で麺を食べきった刀。残るはチャーシューを始めとした具材だが、このまま食べても同じ味が続いて飽きてしまうのではないか。
　どうにかいい方法はないかと刀は調味料のトレイを見るが種類豊富すぎて何を選んでいいのやら。
「畑中、味の変化はどれがオススメだ？　いろいろありすぎて迷ってさ。いいのがあるなら教えてくれよ」
　一番詳しそうな『猫島軒』の娘にそう聞けば、
「断然、ネギ油アル！　この『はらべこ』のネギ油は風味いっぱい、がらっと味が変わるアルよっ！」
　力いっぱいの返事が返ってきた。
「黒滝のオススメはどれだ？」
「俺は魚粉と高菜だな。ご飯に乗せてもうまいし……」
　竜也はこっそりと白米の入った茶碗を見せる。米の上には高菜と魚粉の即席フリカケ。なんとも美味しそうである。
「二人共、情報ありがとう。試してみるよ」
　礼を言った刀はネギ油をラーメンに垂らし、華菜子のオススメ通りに風味いっぱいになったスープを一口飲み干す。
　次は魚粉と高菜だな、と刀は追加注文のため声を上げた。
「おじさん、俺にもご飯ちょうだい！」