表参道商店街の東の隅に『はらべこ』という店がある。
真っ赤な暖簾に白筆で描かれた丼と『はらべこ』という店名が目印の、島の人達には馴染み深い昔ながらのラーメン屋。同じく表参道商店街に店を構える『猫島軒』とは、寝子島のラーメン文化を共に支える好敵手という仲であった。
こじんまりとしながらも清潔な店内は、飴色になった木製のカウンターとテーブル席が並んでいる。
それは調理場も同じ。綺麗に磨き上げられたシンクやコンロ、大切に使われている調理器具。大きな業務用冷蔵庫には、新鮮な材料が保存されていた。
ガスコンロの前、かけられた寸胴鍋から音がする。
くつくつと。こぽり、ごぽりと。
真っ赤な液体をゆらゆらと揺らしつつ、寸胴鍋が真っ白い湯気を立てている。
「――ふむ。ここか」
厳格そうな老店主――霞 源次郎がそう誰ともなしに呟き、つ、と寸胴鍋に秘伝のスパイスを振り掛ける。
途端、食欲をそそるスパイシーな香りが厨房をぶわりと駆け抜けた。
それを見、源次郎はニヤリと笑う。
「くっくっくっ、この辛うまジャンボラーメンを完食できる猛者などおるまいて。
今年も寝子島の民を圧倒的な量の旨辛さの渦に叩きこんでくれるわ……!」
ぺたりと店内の壁に貼られた一枚のポスターにはこうあった。
『今年も辛うまジャンボラーメンの季節がやってきた! 勇敢な若者よ、チャレンジあるのみ!
辛うまジャンボラーメン概要:
縮れ麺・三玉、濃厚辛うまスープ・一.五リットル、味玉・二個、
厚切りチャーシュー・一○枚、白髪ねぎ・一○○グラム
時間制限なし! 急かさないからたくさん食べてね!
完食できた人には『はらべこ』のラーメン一年間無料券(※)をプレゼント!
完食できなかった人は、辛うまジャンボラーメン代金 二○○○円 を支払っていただきます。
※ラーメンはどの種類でもOK! ただし一日一杯限り!』
皆様、はじめましてまたはお久しぶりです。はと と申します。
これからもよろしくお願い致します。
以下、補足となります。
ラーメン屋『はらべこ』のランチタイムでのひと時となります。
・霞 源次郎(かすみ げんじろう)
今年で七十歳のラーメン屋『はらべこ』現役店主兼猟師。
頑固な爺さんだけど、こっそり可愛いもの・甘いもの好き。
チャラい孫が動物園で働いているとかいないとか。
・辛うまジャンボラーメン
値段と内容が釣り合わないと噂のお爺ちゃんの道楽メニュー。
味は世辞抜きで美味しく、島外からも目当ての客が来るほど。
・それ以外のメニュー
ラーメン(塩・味噌・醤油)/チャーシュー麺(塩・味噌・醤油)
餃子/チャーハン/豚角煮
杏仁豆腐/マンゴープリン/ソフトクリーム/クレープ
※値段はどれも一品五百円以下です。
それでは思い思いの時間をお過ごしください。
以上になります。
では、皆様のご参加をお待ちしております。