伝説のジャンボらぁめん｜リアクション

伝説のジャンボらぁめん

　炎天下の中、表参道商店街を歩いていた日暮ねむるは『はらべこ』に目を留めた。
　涼めるのならどの店でもよかったのだが、商店街のあちこちで見たポスターに興味が沸いたのも事実である。
　店内の賑やかさに誘われるようにねむるは店の引き戸を開ける。
　押し寄せる熱気は挑戦者達の盛り上がりのせいだろう。クーラーはきちんと動いている。客は誰もが和気藹々と楽しそうにラーメンを食べている。
「あれ、日暮。入らないのか？」
　後ろからかかった声に振り返る。そこにいたのは八神修だ。
「八神君。どうしたんだ？」
「どうって、ラーメンを食べに。評判の店らしいからさ」
「そうなんだ」
「日暮は？」
「外物凄く暑いから、ちょっと涼みに」
　二人は店内に入り、カウンター席へつく。
　メニューを見る修に気づいた真央が首を傾げた。
「修ちゃんは辛うまジャンボ挑戦しないのだ？」
「いや、さすがにその量は食べきれないから止めておくよ。美味しそうだし、興味はあるけどさ。……真央は食べ切れそうか？」
「……も、もも、もうちょっと、なのだっ」
　修の問いにハッと我に返った真央は、慌ててズズズと麺をすする。麺も残り二玉といったところか。
　その様子を微笑ましげに見た修は、自分も食事にしようと厨房の源次郎へ注文をする。
「店主、俺は塩ラーメンを頼むよ」
「塩だな。少し待っておれ。横の小僧は何にするんだ？」
　丼の準備をする源次郎に問われ、ねむるは悩んだ末に冷たいソフトクリームを選ぶ。
「すいません。ソフトクリームひとつ、くださいな……」
　ねむるの注文にくわっと源次郎の目が開く。
「待っておれ……！」
　軽い足取りで源次郎はソフトクリームメーカー（新品）の前に立つ。このきめ細かなソフトクリーム、自家製である。どうやらずっと注文が入るのを待っていたらしい。
「ヨーグルトとバニラのハーフ＆ハーフ、百円だ」
「わ、安い。いただきま～す」
　百円玉と交換で手渡されたソフトクリームをねむるは一口。
　口の中に広がるのは甘く、濃厚なバニラ。そして爽やかな酸味のヨーグルト。そのふたつが交じり合い、とても美味しかった。
（もしかして店長さん、甘いもの好きだったりするのかな？）
　濃厚な甘みにねむるは思う。よくよく考えたらラーメン屋でソフトクリームを売っている店などそうそうないだろう。
　そのまま甘さをゆっくり味わっていたねむるだが、異変に気づく。ソフトクリームが溶け出すスピードが速すぎることに。
「ま、まさか……辛うまジャンボラーメンの熱気に……！？」
　ソフトクリームが夏バテの状態だ。ぽた、とテーブルに溶け出したソフトクリームが落ちる。
「うわわわ溶けちゃう溶けちゃう！　早く食べなくちゃっ！」
　慌ててねむるはソフトクリームを食べきったのだが、その反動で頭がキンキンと痛みを発してしまう。しかも後半は味わう余裕もなかった。もったいない。
「だ、大丈夫か？」
「大丈夫……」
　心配そうな修に答え、ねむるはゆっくりと頭をさする。
　どうにか余裕を取り戻したねむるは店内を見回した。誰もがラーメンを食べているその姿に、自然と腹の虫が鳴る。
「にしても、ラーメンもなんだか美味しそう」
　辛うまジャンボに興味が沸いたが、あの量を食べきれる自信はない。でもどんな味なのか確かめてみたい。
　そんなねむると瑞穂の目が合ったのは、ある意味必然だったのかもしれない。
　箸から手を離している瑞穂。恐らく食べ切れなくてリタイアするつもりなのだろう。
「……おいで？」
　にっこりと笑顔で瑞穂はねむるを手招き。ねむるはそれに甘えて傍に行く。
「食べてみたいんでしょ？　いいよね、源次郎さん。お代は私が払うんだし」
「ああ、構わんぞ。平らげてくれるのならありがたい」
　老店主の許可が出たのでねむるは新しい割り箸を割り、やや冷めてしまった辛うまジャンボラーメンに手を伸ばす。ずずずずず、と麺とスープをすする彼は満足そうに目尻を下げた。
「うん、こりゃ美味しいね。ぴりってくるのがいい」
「さっきラー油入れちゃったからね。あっちのラーメンは、まだ何も入れてなかったはずよ？」
「ほほう」
　ねむるは華菜子のテーブルに行き、空席に置かれた丼を指す。ちょっと食べていい？　とのジェスチャーに、華菜子はひとつ頷いた。
「先輩の無念、晴らしてくれるアルならばそれで……っ！」
「よくわからないけれど、入るだけ食べるから」
「ありがとうアル……！　ラーメンの神のご加護があるアルよ！」
　ラーメン神のご加護って何だろう？　そうねむるは疑問に思いつつ、味玉をぱくりと食べた。

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