伝説のジャンボらぁめん｜リアクション

伝説のジャンボらぁめん

　そしてまた新たな客がやってきた。お昼時の賑わいはまだまだ続きそうである。
　辛うまジャンボラーメンの噂を聞き、これは是非とも制覇せねばと『はらべこ』へやってきたのは財前華蓮。『猫島軒』の娘の畑中華菜子と共にの来店である。
　舞華のマイクを見るなり、華蓮はずずいっと身を乗り出した。
「私、財前華蓮の華麗な挑戦と制覇の過程をよーく記録するがよいですわ！　オーッホッホッホ！」
「畑中華菜子アル。『猫島軒』もよろしくアルよー」
　二人は仲良くテーブル席に付く。ラーメンを初めて食べる華蓮のため、華菜子はラーメンの作法を懇切丁寧に教えていた。
「……精神統一、ですの？」
「そうですアル。ラーメンを待ってる間も勝負ですアルよ」
　真剣そのものの華菜子に、そういうものなのかと華蓮はその作法を信じる。
　その様子を見た源次郎は愉快そうに肩を揺らすと、出来上がった辛うまジャンボラーメンをテーブル席に届けた。
「わぁい、ラーメンが来たアル。うーん、美味しそうな匂い！」
「ラーメンがきました……わ？」
　どん、と目の前に置かれた黒い巨大丼。ポスターの写真と説明を見てたいした量じゃないと思っていた華蓮だが、実物を見てはその考えを改めざるをえなかった。
「…………ちょっと店主、これ量間違えてません？」
　駄目もとの華蓮の質問に、源次郎は悪そうな顔でゆっくりと頭を振る。
「くくく、残念ながらこれが我が辛うまジャンボラーメンのありのままの姿……！　さあ、華菜子の友よ。存分に食すがよい……！」
「そ、そう」
　やや白目になる華蓮だが、それに気づかず華菜子は丼を前にはしゃいでいた。
「食べる前には手を合わせてラーメンの神にお祈りするですアル。先輩、ラーメンはずずーっと音を立てて食べるんですアルヨ！」
　言って華菜子は作法を実行。ずずーっと豪快な音を立ててラーメンを食べ始める。
「よく染みた味玉美味しいー。チャーシューもいいお味アルー」
　幸せそうな華菜子に源次郎も幸せそうだ。それを見た華蓮も思い切って麺を音を立ててすする。
「――あら、初めて食べましたけど結構美味しいですわね。これなら余裕ですわー！」
　嬉々としてラーメンを食べる華蓮だが――半分ほど食べ進んだところでピタリと箸が止まった。
（やばいですわもう無理ですわ）
　初挑戦の女の子なら、ラーメンの半分も食べれば十分の戦果である。
　しかし辛うまジャンボラーメン制覇者となり名を高めたい華蓮にとって、ギブアップだけはノーサンキューだった。敗者よりも勝者になりたい。
　華蓮はじっと目の前の丼を睨みつけ、ちらりと隣の華菜子の丼の様子を偵察する。華菜子もラーメン大好きっ娘ながらに健闘しており、チャーシューも残り三枚まで平らげていた。
　その時、華蓮の頭に妙案が浮かんだ。
「……あっ、畑中さん！　あれを見て下さい！」
「はい、先輩なんですアルか？」
　華蓮の指す方向を見上げる華菜子。しかしそちらには天井付けの扇風機があるだけだ。青いビニールテープが風に乗ってそよそよと揺れている。
「財前先輩、ああいう扇風機を見たの初めてですアルか？」
　最近めっきりと見なくなった昔ながらの商店の風景に、華菜子はほんわりと笑った。お嬢様な華蓮にとっては珍しかったんだろう、と彼女はのんびりと思っていたのだが。

　ひょいひょいひょいっ。

　華蓮はその隙に、自分のチャーシュー四枚すべてを華菜子の丼へと引越しさせていた。器用な箸使いでほんの数秒で引越しは完了する。
（さようなら、私のチャーシュー。新天地であるその丼で他のチャーシュー達と畑中さんに仲良くいただかれるといいですわ……）
　一部始終を見ていた源次郎は、厨房で懸命に笑いを堪えていた。それでも我慢できなかったのか、ごふっと軽く咽ている。
　店主のジャッジがＯＫだったことに華蓮は内心ガッツポーズ。辛うまジャンボ、挑戦ルールは実は何でもアリなのかもしれない。
「あらあら、『はらべこ』には珍しいものがあるんですのね。それはそうとして気のせいでしたわ」
　すっきりとした自分の丼に満足した華蓮は素敵な笑顔を浮かべていた。華菜子はわけもわからぬままご機嫌な華蓮の笑顔を嬉しく思い――自分の丼を見て停止する。
　チャーシューが、七枚。
「……あれ、さっきチャーシュー食べたのに増えてる？　気のせい？」
　思いっきり気のせいではないのだが、華菜子はポジティブに受け取った。
「これはラーメンの神のご褒美と挑戦アルよっ。私、このラーメンに勝つアル！」
　言って華菜子はがぷっとチャーシューに噛み付いた。

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伝説のジャンボらぁめん

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