せんせいといっしょ：浅井先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：浅井先生編

「皆で食べると美味しいにゃ」
「そうですね。あ、先生口元に……」
「だ、大丈夫だ！」
　といきが笑い、時子も相槌を打つ。その際、幸太の口元についたカレーを指摘し、ティッシュを渡せば少し赤くなる幸太。どうやら、恥ずかしかったらしい。その様子をみていた羽衣は何気なくこの場所が担任の大学時代の先輩が開いた場所である事を思い出す。
（大学かぁ。あたしも、行くかも知れないんだよね……）
　ちょっとぼーっとしてしまった羽衣に気付いた幸太は、僅かに首を傾げる。
「鴇波、どうしたんだい？」
「ちょっと、考え事です。大学ってどんな所かなーって……」
　ふと出た言葉に、幸太は最初、目を丸くする。が、直ぐに楽しげに微笑む。
「興味あるのか？　感心だなぁ」
「あ、で、でも……あたし将来やりたいこととかまだ見つからなくて、いいのかな……って」
　更に出た言葉。我に帰った羽衣は、急に恥ずかしくなって俯いてしまう。自分が場違いな事を言ったのではないか、と悶々としてしまう。けれども幸太は優しい笑顔を羽衣に向ける。
「まだ焦らなくていいぞ。高校を出るまでにおおよその指針が固まっていればいいんじゃないか？」
　幸太はそう言いながら空っぽになったグラスに麦茶を注ぎ、羽衣に渡す。ちょっとしゅん、としてしまった彼女だが、他のメンバーは誰も気にしていないようだった。そんな暖かな目に、羽衣は少し安堵する。カレーの話をして流そうとも考えていたが、その必要はないようだった。
　羽衣の言葉がきっかけで、少しの間進路について考える一同。その中でも幸太は自分に出来る範囲でアドバイスをくれる。そんな姿を、といきはどこか暖かな眼差しで見ていた。
　彼女が思い出したのは、記録会の帰り。一人で考え込んでいたといきに、声を掛けてくれたのは他でもない、陸上部顧問の幸太だった。その時以来、といきは顧問に好意を抱いている。あの夕暮れに言われた言葉を思い出し、といきは小さく笑った。

（外で食べると格別だな～）
　轟はカレーのお代わりを用意しながら笑顔がとまらず、のりのりである。お代わりしている幸太を初めとする数名は同じ事を考えたのか、思わず頷く。
「後片付けの後、温泉に行くんやったな。準備もしとかなあかんなぁ」
「えーっと、その後にまた自由行動だっけ？」
　柳司の呟きに、空音が問えば「そうやった筈」と柳司は頷く。幸太はおかわり分を注ぎながら生徒たちに言った。
「温泉はここから往復で約３０分。そっちも新しく出来たらしく、俺たちが最初の利用者になるそうだ」
　話によると男湯も女湯も広々とした作りになっているらしく、ゆったりできるそうだ。その話を聞き、皆ゆっくり休めそうだな、と思うのだった。

　キッチリ後片付けを済ませると、一行は休憩を挟んで温泉へと向う。賑やかに歩くその姿を、キャンプ場のオーナーがどこか暖かな眼差しで見送る。
「いい顔してるねぇ、浅井君」
　彼はにっこり笑うと、管理棟の中へと入っていった。