せんせいといっしょ：浅井先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：浅井先生編

・ほんわり、小さな光
　入浴から帰ると、夜の自由行動へと移行する。修はオーナーからカーキーを受け取ると、テントの中で共に仮眠を取った。傍らには数学Ⅲの参考書。修は相変わらず勉強好きなようである。仮眠から目覚めれば参考書を片手にすらすら解いていく。因みにそんな光景を目撃した耀は思わず突っ込んだ！
「八神、何しに来たんだよ？！」
「ん？　キャンプだが？」
「あぁ、もう！　勉強から離れろって！」
　あっけらかんとした表情で答える修から参考書を奪おうとする耀。取られまいと必死になる修は真顔で言う。
「生物や英語の参考書もあるぞ。忘れてきたのなら貸そうか？」
「だからそういう事じゃねぇっ！」
　更に突っ込む耀だが、そんな様子を遠くから見ていた空音は「くふふふふ～」と楽しげにニヨニヨとした様子で２人を見ている。
「ん？　修ちゃんと耀ちゃん何してるのだ？」
　そこへやって来たのは真央。彼女は花火をしたいなと思って準備を考えていたのだが２人の声を聞いて気になったらしい。それで当初の目的を思い出した耀は生物の参考書に載っていた写真のホタルを指差した。
「ホタル見ようぜ、ホタル！　たしかはぐれホタルがいるって話しだしさ」
「そうだな……。観察に向うのもいいな」
「楽しく皆で観察なのだ」
　３人は早速羽衣から虫除けスプレーを借りた後、懐中電灯片手にホタル探しへと出かけた。川の方へと向っていくうちに、先ほど釣りをした場所から少し離れた場所で小さな光を見つける。
「こいつ、か？」
　耀が目を凝らせば、ゆっくり点滅するホタルの姿を見つけた。気がつけば、修の肩に１匹止まっている。
「季節はずれではあるが、ここには居たんだな……。因みに、オスのみがお尻を光らせる。ああ、配偶行動の一種と見られている。……このゆっくりとした光り方から、ゲンジボタルか」
「修ちゃん、解説ありがとなのだ」
　修がホタルを愛でながら簡単に講義すれば、真央と耀は感心したように聞き入る。３人と１匹はしばし幻想的な光景に心を和ませた。
　少し離れた所で、時子は川べりあたりで夜行性の鳥たちと戯れていた。丁度みみずくが数羽おり、彼女は彼らと楽しくお喋りに興じていたのだ。
「実は寝袋も初体験で……」
『そうなんだねぇ。でも、慣れると気持ちいいらしいよ～』
　キャンプが楽しそうだ、と語る者もいればゴミの片付けをちゃんとするか、心配しているモノもいたりして色々考えさせられる。時子はこの事を胸に留めておこう、と考えた。
　ちょうど勇も散策に来ていた。ちらりとみえたホタルに眼鏡を正しながら考えるのは、進路やらこれからのこと。こんがらがった頭の中を整理するのにも、このような穏やかな空間が必要だったのかもしれない。
（アルバイトの事もきになるし……、将来の事を考えて大学や専門学校を決めないと……）
　内心で溜め息を吐きながら、勇はホタルの舞う光景に瞳を細めた。