せんせいといっしょ：浅井先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：浅井先生編

（水浴びでもするかなぁ。そういえば、八神達は釣りに行っていたか……）
　一人散策をしていた士は、川べりにやってきて思い出す。耳を澄ませば彼らの声も聞こえ、小さく微笑む。危惧していた空音の暴走も（今の所）無く、このまま平穏に行けばいい、と心で願う。
　川に足をつければ、心地良い冷たさが広がる。綺麗な水に目を凝らせば、足のそばをヤマメが通り過ぎていく。いいかんじに魚が居るな、と思っていると……渓流靴が目に入る。
「……手で捕まえるのか？」
　少し離れた所でストイックに釣りをしていた猯利と目が合った。士は僅かに苦笑する。
「いや、今は捕まえるつもりはない」
「そうか」
　それだけ言うと、猯利は再び釣りに没頭する。慣れた手つきで釣竿を動かしたかと思えば美味しそうなヤマメを釣り上げており、士はその腕前に感心する。
（邪魔をしないようにしないと）
　士は腰につけていた紐を頼りに、静かにその場を後にする。その背中をチラリと見送り……猯利は、また1匹釣り上げるのだった。

　暫くして幸太が耀達に合流する。彼は多少慣れているらしく、「久々だなぁ」と楽しげに準備を始めた。
「先生も、釣りを嗜まれるのですか？」
「ちょっと齧った程度だけどな。大学時代、長期の休みの時先輩から教えてもらって、たまにやっててね」
　修が問えば、幸太は照れくさそうに答えつつ1匹釣り上げる。開始早々すんなり釣れた姿に感心しているが当の本人は「まぐれだって」と苦笑する。修は幸太にアドバイスを貰いながら釣竿の持ち方などを修正すれば、再び１匹ゲットする。
「先生はサッカーもやってたんスよね。何処のポジションだったっすか？」
「そうだなぁ。基本はフォワードだったけど、他のポジションもそこそここなしていたな」
　耀の問い掛けに笑いながら幸太が答える。応援しているサッカーチームはあるか、と問えば最近はなでねこリーグの『バンビーナ寝子島』なのだとか。それには耀も目を輝かせ、内心では「サッカーしてぇ……っ！」と思ってしまう。
「工藤、大丈夫か？」
「えっ？！　あ、ああ……」
　妙にぷるぷるしていたから見ていた修から心配され、苦笑して「大丈夫」だと耀は答える。そんな様子を楽しげに見つめる幸太と仔犬・カーキー。
「サッカーをしたくなる気持ちは分かるな。俺も先輩とサッカーの話をしていたらボールが恋しくなったりしたしなぁ」
「！　そうっすよねーっ♪」
　サッカーの話題で（小さな声とはいえ）盛り上がる２人に、修は「こういう時間も良い物だな」と微笑んだ。

（うわー♪　幸太先生、釣りも出来るんだ～！　あ、1匹釣り上げた）
　空音は、幸太達の様子を見て目をキラキラ輝かせていた。が、そこで手に伝わる振動。
「今よっ」
「えっ？！」
　冥に言われるがまま釣り上げれば、やや小ぶりなヤマメが釣れる。漸く捕らえた１匹に最初は驚いたものの、あとから嬉しさがこみ上げる。
「なかなか上手いじゃないか。よし、俺もがんばろう！」
　礼二郎が少し気合いを入れ、冥も「よかったわねっ」と喜びを分かち合ってくれる。空音はにぱっ、と笑うと幸太達にもそれを見せる。
「中々腕がいいな、桃原」
　幸太に笑顔でそう言われ、空音は照れながら頷いた。

　時間となり、猯利も合流してテントへ戻る。結局はみんな２匹ずつ釣っており、キャンプ参加者分は確実に足りた。それらをどんな風に料理しようか、という話で盛り上がりながら戻っていく。そうしているとお腹がすいてくるのか、テントに戻った面々はどうにか気合いを入れて夕食準備に取り掛かったという。