せんせいといっしょ：浅井先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：浅井先生編

・せせらぎを耳に
　その頃、近くの川へと来ていた釣り組はと言うと……、まったりしつつ釣りを楽しんでいた。
　川釣りを嗜む猯利は、よく水辺に暮らす昆虫を観察し、そこからそれらに近い毛鉤を選択する。そして音を立てず岩などに隠れながら上流へと遡った。暫く歩いていたが、淵の深い所から徐々に浅くなっていくポイントを見つけ、１つ頷く。
（……この辺りが良さそうだな）
　猯利は早速糸を垂らし、心を落ち着かせた。

昼間の行動を考えていなかった空音は、中々体つきのいいメンバーが揃っているのと後から幸太が合流する、という理由で釣り組と行動を共にしている。
（うーん、服越しに動く筋肉の様子を見るのも中々……じゃなくて、涼しくて原稿はかどりそう）
　そんな事を考える空音は現在、耀と羽衣が持ってきた西瓜が流れていかないようにと見張りもしている。そんな彼女の傍では愛らしいコーギーがころころと寛いでいる。修の愛犬、カーキーである。
「そこが気に入ったみたいだな」
　修はそんな様子のカーキーに穏やかな声を掛け、傍らの耀は久々の釣りという事もあり疑似餌選びに悩んだり、中々釣れずに内心焦ったりしていた。
「……絶対に釣ってやる……」
「まぁ、これでも飲んで落ち着こうよ」
　冥がスポーツドリンク（空音が持参した粉末を水に溶いたモノ）を勧めながら窘める。そういう彼もまた中々釣れないのだが、それでも皆で釣りをしている、という『今』を楽しんでいた。
　少し離れた所では礼二郎が1匹釣り上げていた。釣りに慣れていない彼ではあったが、釣れた事に思わず顔が綻ぶ。
「中々肥えてるな。焼いたら美味しそうだ」
「確かに。……っと！」
　相槌を打った傍から耀の手に振動が伝わる。そして漸く１匹目をゲットし、やんちゃな笑みを浮かべては修たちも静かにそれを喜ぶ。
（水が本当に綺麗……）
　その様子を見つつ、冥は川に眼をやる。程よく澄んだ水は泳いだら気持ち良さそうで、よく見つめれば魚たちが楽しそうに泳いでいるのが見える。
「こんどはこっちか」
　修が静かに呟き、釣竿を引く。すると、こちらも丸々と肥えたヤマメがつれた。
「この調子で行けば、皆１匹ずつ食べられるくらいには釣れそうか？」
「だといいんだけどね」
　礼二郎が問えば冥がバケツを覗いて相槌を打つ。釣りを始めて１時間経つが、漸く６匹釣れた所だった。
「そういえば、桃原は釣らねーの？」
「あ、あたし？！」
　突然耀に言われ、空音はビックリする。思わず大きな声を出そうとしたが前もって「大きな声をあげると魚が逃げる」と猯利に言われていた為、加減していた。
「うーん、やった事ないから自信ないなぁ」
「大丈夫よ。やってみない？」
　冥に誘われてそろりそろりと近づき釣竿を持つ。そして、少し緊張気味に川を見つめる。空音は「釣り漫画読んでおけばよかったかな」なんて内心で呟くのだった。