卒業～らっかみの願いを叶えて～｜リアクション

卒業～らっかみの願いを叶えて～

　夏の寝子島～寝子高七不思議、さいごのひとつを知りたい！・その１

「ののこくん、まだまだやりたいことあるんだねー？　ふっふふー……私もだよー！
　私も寝子高七不思議は気になっててねー。卒業前に最後の一つ見つけちゃいたいんだよー」

　とある夏の日の放課後。寝子高の下駄箱の前には最後の七不思議を調査したい、ののこ、三ヶ島葵、宮祀智瑜、そして卒業生の仙藤紫の姿があった。
「この下駄箱はたしか、七不思議のひとつ『キサラギくん』だったわね」
　紫は自らも関わった『キサラギくん』の下駄箱を懐かしむように見遣った。
「わくわくしすぎてゆうべは徹夜しちゃったよー」
　ののこは目の下にクマを作りつつも楽しみさを隠しきれていない。
　そんなののこに確かめるように、葵はすでに知られている七不思議を指折り挙げてゆく。
「目玉が動く音楽室のバッハの肖像画にー、体育倉庫の地下に広がるダンジョンにー、生物室の動く骨格標本にー、音楽室と準備室の間に出来てた存在しないはずの教室にー、下駄箱のキサラギ君にー、北校舎の魔鏡……六つは見つかってるんだねー？」

「残りひとつは何だったのか未だによくわからないの」

　卒業してなお解けぬ謎は、紫のなかにいまだ、喉にひっかかった小骨のような居心地の悪さを残していた。
「まず最初に行うのは調査かしらね？」
「そうだね。夜までの間に、手分けして手がかりを調べてみよー！」
　おー！　とこぶしを突き上げ、四人は一旦解散した。

◇

「桐島先生。先生は何かご存じないんですか？」
　智瑜が向かった先は、数学の桐島義弘先生のところだった。
「残念だが心当たりはないな。しかし……夜の学校に忍び込むつもり、だと？」
「はい」
「あのな……聞いたら止めなければいけなくなるだろう」
「いいえ。義弘先生にはぜひ、協力をお願いしたいんです。やり残したことがあったら卒業しても心残りですから。ねえ、いいですよね、先生？」

◇

　葵と紫、ののこは、それぞれ人の話を聞いて回った。葵とののこはおもに現役の寝子高生たちに、紫は古株の先生や卒業生を中心に噂を尋ねて回ったのである。下校時間が近くなり、智瑜も合流してここまでの調査結果を報告し合う。
「仙藤先輩、どうでしたー？」
「あまり成果はなかったわね。野々さんと三ヶ島さんの方は？」
「こっちも……というか、トイレで赤い紙青い紙って聞かれるとか、南校舎の階段が一段増えるとか、女生徒が何回も飛び降りる幻が見えるとか」
「ありがちね。昔、自殺した子、とでもいうのかしら。でも自殺の話なんて聞かなかったわ」
「そーそー。どこかで聞いたような話ばっかり。七つ目って感じじゃなくてー」
「『七不思議がじつは七つより多い』っていうのが七つ目だ、って人もいたよ！」
　葵とののこの報告を聞き、紫は困ったように眉を下げる。
「七つ目について、なんの手がかりもない、ってことかしら」
「はいはいはーい！」
「なにかな、ののこくん」
「だったら、いままで見つかってる七不思議の場所をもう一度回ってみようよ！」
　このののこの案は、即座に採用された。
　というか、葵も紫も次の手はそれしかないだろうと思っていたのだ。
「ふっふー、夜の探検は判明済みの六不思議ツアーってことでー」
「では、夜八時に集合にしましょうか。内緒ですけど、桐島先生が、カギを開けてくれるそうです」
　声を顰めた智瑜の報告に、えー、あの堅物の桐島先生が！？　と葵とののこは目を丸くする。
「あー楽しみ！」
　ともかく、夜を待とう。