「喜多川っち、聞いてる?」
「聞いてない」
「でさあ、そのダンジョンの奥には幻の体育用具があると言われているわけよ。二十段もある跳び箱とか」
「私は『聞いてない』って言ってるのによく話し続けられるな、弥島は……」
「へへへ、すごい?」
「褒めてないからな。なにひとつ」
二人は寝子島高校生、ともに一年生の弥島 純子と喜多川 怜子と申します。
腐れ縁とでも申しましょうか、保育園から小学校、さらには中学校、純子と怜子は必ず同じクラス、一度たりとて離れたことがありません。島外の出身なのですが偶然が積み重なって高校も同じ、クラスまで同じという道連れっぷり。正直、怜子のほうはもうたいがいにしてほしいと思っているのですけれども、当分つづきそうな彼女らの縁です。
さてそんな純子は美化委員会、怜子は体育委員会の所属なのですが、本日二人は、その合同作業と申しますか、ただ単に純子がしでかした不始末の罰に怜子が付き合わされているだけというか……ともかく、事情があって体育倉庫の掃き掃除をしているのでした。
体育倉庫というのはつまり、体育館わきの用具入れのことです。跳び箱、マット、バトンなどなど、体育の授業で使うものが収納されております。薄暗く、そしてカビ臭くて埃っぽい独特の匂いがします。
そんな体育倉庫に、とある噂があるのだと純子は言うのです。
この学校の倉庫の下には広大な地下迷宮、すなわちダンジョンが隠されているのだと。
調子が乗ってきたのか、なんだか伝法な口調で彼女は熱弁をふるうのでした。
「……倉庫のどこかに隠された足元の戸板をはがすと、謎の地下への階段があらわれるときた。そこから地下に降りれば、さあ冒険の幕開けってぇわけだ」
ところが怜子のほうはいたって冷静です。さっさとホウキを動かしながら簡単に返しました。
「ああそうか。勝手に幕開けているがいいさ」
「話聞いてなかったんじゃなかったの?」
「無視してても弥島は一方的に話し続けるだろうが」
「さっすが、わかってらっしゃる!」
「だから別にいい意味で言ってるんじゃないんだけどな」
「……あれ?」
と、ここで弥島純子は不審げな声を上げました。
「どうした」
さしもの怜子も、彼女の指差すものを見て驚いたようです。
古びたマットの下に、重々しげな鉄のプレートがあったのです。
「本当に……? いやこれは……っていきなり開けるなこのバカ女!」
怜子にはいぶかっている間もありませんでした。純子がとっとと鉄板を外しその下をのぞきこんだからです。
「……まさか」
「やっぱり」
二人の反応は異なりますが、言いたいことは同じです。
そこには階段があったのです。地下らしきところに続くコンクリート造りの。
どういう原理かはわかりませんが、階段およびその先には、ほのかな灯りも感じられました。
それっきり、二人は体育倉庫から出てきませんでした。
美化委員会の顧問
若林 沙穂先生が、「倉庫に清掃に行った二人、戻るのが遅いわね。ちょっと見てきて」と、数名の美化委員に呼びかけました。同じころ、体育委員会の
吉田 熊吉先生も、同様の呼びかけをしていました。
もともと七不思議な噂のあった体育倉庫のこと、興味を持って参加した生徒もいることでしょう。
どうやらこの発端は、神魂のしわざによるもののようです。
今回の舞台はダンジョンです。それも、体育倉庫のダンジョンです。
だから地下に待ち受けるものもまた、体育用具の数々となるでしょう。薄暗い迷宮体育倉庫で、自分より大きな砲丸がころがり落ちてくるかも、大量の三角コーンの雪崩が起きるかも、徒競走ができるほどのマットで跳ね回ることになるかも……?
いずれにせよ、この場所にちなんだ冒険に満ちたひとときを味わってみませんか?
お世話になっております。マスターの桂木京介です。
【概要】
体育倉庫の地下には謎のダンジョン(地下迷宮)がある。
それも、驚異に満ちた体育用具の数々が随所にしかけられたダンジョンが……!
という、まったく根拠のない噂がこの学校の七不思議のひとつとして流れていたのですが、どうやらそれは本当のようです。
今回はちょっと『フツウ』とは違うヘンテコなワールドに挑むことになりますけれど、アスレチックランドに日帰り旅行してみたような気分で楽しんでいただければ幸いです。
大怪我をするような極端な罠はありませんし、閉じ込められて帰れなくなったりもしません。
みなさんの『こんな体育用具があったらいいなあ』『体育用具でこんな遊び方をしたかった』というアイデアをお待ちしております。
シナリオの性質上、たいがいのアイデアは通りますのでお気軽にお願いします。
【参加条件】
申し訳ないのですが性質上、本シナリオには寝子島高校のキャラクターしか参加できません。
美化委員会・体育委員会所属のキャラクターでなくても、寝子高生でありさえすれば誰でも参加可能です。
【ダンジョンの構造】
地下もなぜか体育倉庫と同じ素材で作られており、えんえんと倉庫が続くようなイメージです。
体育倉庫、といってすぐ連想する独特の『あの』雰囲気があることでしょう。理由はわかりませんが倉庫内と同じく電灯がついており、ぼんやりとした明るさがあります。なので懐中電灯等は特に必要ありません(といっても、雰囲気作りとしてカンテラ等を携帯していくのはまったく問題ありません)。
【NPCについて】
若林 沙穂先生、吉田 熊吉先生の名前はガイドには出ておりますが、二人はリアクションには登場しません。
行方不明(?)になった弥島 純子(やじま じゅんこ)と喜多川 怜子(きたがわ れいこ)はともに一年二組の生徒、ダンジョンのどこかにおりますので、探してあげてもいいかもしれません。
それでは、次はリアクションでお目にかかりましょう。
展開は自由に発想してみて下さいね。
あなたのご参加を楽しみにお待ち申し上げております。桂木京介でした。