寝子島高校の音楽室の隣には、楽器などが保管されている音楽準備室がある。
「あれ?」
忘れ物に気付き、学校へ取りに戻った彼女は、教室へ向かう廊下の途中で足を止めた。
音楽室と音楽準備室の間に、存在するはずのない扉があったのだ。
好奇心に負け、そっと扉に手を掛ける。
――カラリ。
扉を開けた途端、ふわりと吸い込まれるような感覚に襲われ、気が付くと彼女は椅子に座っていた。
驚く彼女に、どこから集まったのかすでに着席していた生徒達が、無言で哀れみの眼差しを向けている。
(ここ、どこ?)
見回すと他のクラスと殆ど変わらない「教室」のようだった。
教壇には「弁天さま」が立っていた。
そして教室には
津止先生の授業の時と同じく張りつめた空気が漂っている。
弁天さまは静かに腕を上げ、黒板の文字を指さした。
『猫は音を立てずに教室から出るべし
一人出れば、また一人入るなり
弁天在る限り、教室在り』
教室の雰囲気に耐えられなくなった彼女は、思わず立ち上がった。
「はあ? さっきから一体なんなの? てか、アンタ誰? つーか、これ何!?」
彼女はいつの間にか付けられていた首輪の鈴を掴んだ。教室にいる者達の首にも同じ鈴が付いている。
掴んだ拍子に、チリンと彼女の鈴が鳴った。
他の生徒達は彼女を見て青褪め、声も出せないまま彼女の背後から忍び寄る「黒い影」を見ていた。
「黒い影」は、牛のような角を持つ四本足の獣の形で素早く彼女に近づき、その角で彼女の背中を突き刺した。
「きゃっ!? 何よ…これ…っ」
影の角は、彼女の体から血も流さず、痛みも感じさせなかったが、しっかりとその体を捕らえて放さない。
彼女は慌てて窓に手を伸ばし脱出を試みるが、必死の抵抗も空しく、窓が開く事はなかった。
黒い影が、ずぶりと床に沈む。
「いや…た、助け……」
影はもがき暴れる彼女を捕らえたまま床に引きずり込み、消えた。
教室に、静寂が戻る。
生徒達は、目の前の出来事に恐怖で凍りつきながら、震える手で必死に首元の鈴を抑えた。
決して、音が鳴らないように……。
◆舞台
一見、普通の教室です。
廊下側の前と後ろに一つずつある扉は普通に開きます。
ゆっくり開ければ、音もあまりしません。
窓は、何をしても開きません。割ろうとしても割れません。
教室には、立て付けの悪いロッカーが一つあります。
開ける際にはかなりの音がします。
中には、ほうき、モップ、ちりとり、雑巾、バケツが入っています。
机の中には、教科書やノートの他、一般的な文房具があります。
机の上には、丸くてよく転がる鉛筆があります。
ノートや鉛筆が落ちる音でも襲われる場合があります。
寝子高生は制服です。
寝子高生以外もいますが、何故か制服です。卒業生かどうかは関係ありません。
教室を一歩出ると、中には戻れません。
黒い影に襲われて床に消えたあとどうなるかは不明です。
◆ルール
【1】静かにすべし
音を立てると、黒い影に襲われます。
会話や独り言も音になりますので襲われます。
耳元でしか聞こえないくらいの吐息のような声ならセーフです。襲われません。
鈴がチリンと鳴ったり、イスがギイッと鳴ったりしたら、アウトです。襲われます。
【2】教室から出るべし
1人出ると「別の誰か」が召喚されます。
アクションは、教室に召喚された後から書いて下さい。
ストーリーや他のプレイヤー様のアクションの都合で、
リアクションの途中で召喚されての登場となる事もあります。
最初からか途中からか、希望があれば考慮しますが、希望通りになるとは限りません。
ご了承下さい。
【3】弁天さまを教室から出すべし
弁天さまがいなくなれば、すべてのルールは無効になります。
音を立てても襲われなくなり、教室を出られるようになります。
弁天さまは、自主的に教室から出たり、音を立てる事はありません。
なんらかの方法で教室から出すか音を立てさせる事は出来るかもしれません。
◆弁天さま
津止先生に似ていますが、津止先生本人かどうかは不明です。
人の言葉は理解出来ます。
耳も聞こえるし、目も見えます。
気配があれば、そちらを見ることもあるでしょう。
弁天さまは琵琶を抱いて愛でています。
音が出ないように気をつけながら、触っています。
自分から誰かに攻撃をする事はありません。興味もありません。
攻撃されたら抵抗や防御をしますが、そのときに生じる音は、攻撃側が出した音とみなされ襲われます。
羽衣でふわふわと浮く事が出来ます。
浮いて、すーっと移動する事も出来ます。
◆最後に
※制服のポケットには、生徒手帳、財布、お菓子などがあってもいいですが、
普段からナイフやエアガンを持っているから今もある、というアクションはダメです。
※覚悟を持ってご参加ください。
あなたのアクションが完璧でも、まわりに人がいます。状況は変わります。影響を受けます。
※黒い影に引きずり込まれるときのセリフを必ず書いておいてください。
成功するから失敗時のセリフは拒否する!という意気込みは買いますが、マイナスに判定します。
※このシナリオはシリーズ化する可能性があります。