お酒呑もうよ｜リアクション

お酒呑もうよ

エピローグ

「なれそめは実はよく覚えてないの。私がすっごくモテモテになってー、結婚式があってー、そこに彼が現れて、プロポーズしてくれたような……」
　モテモテ？　結婚式？　プロポーズ？　話が見えず、みんな目が点だ。
「あっ、私がモテモテになるとかあり得ないし、記憶も曖昧だから、きっと夢かなにかだと思うんだけど。そのあとくらいから、なんとなくお互い気になりだしたっていうか、カフェに誘ってもらったり、サロネコのイベントに一緒に出掛けたり、初詣もいっしょに行ったりして」
「サロネコではお会いしましたね」
「そうだったね、朝衣ちゃんも彼と一緒だった」
　朝衣だけでなく遥人も思い出したらしく、頷いている。
「彼、とにかく優しいのよ。影が薄いって言われがちだけど、仕事はできるし、気遣いの人だし、紳士だし……どう考えても私には勿体ないの」
「そう自分を下げることはない。お互いの同意があってお付き合いしているのだろう？」
　文也がきくと、美和はうるうると目を潤ませた。
「私たち、お付き合いしてるのかなあ？　それもよく分からなくって。ねえ、デートしたら付き合ってるっていう？　そもそもデートだった？」
「落ち着いて。美和ちゃん先生は焦りすぎな気がする」
　朝衣にずばっと言われて、美和は大げさに突っ伏した。
「やっぱりー？　私もそんな気がしてるのよー。そもそも彼が私を好きになるわけないし」
　そのとき、紳士的な男性の声が、美和の耳に届いた。
　

「――君のはにかんだ笑顔が好きなんだ、って前に言った気がするけれど、夢だったかな？」

　囲炉裏端を囲んでいた面子が一斉に振り向く。
　そこに立っていたのは美和のお相手、黒崎俊介その人。
　と。

「にゃあ（連れてきたよ）」

　雄の三毛猫――三毛谷道哉である。
（少し背を押してみるか。吉と出るか凶とでるか）
　道哉は、俊介をぺしぺしと尻尾で叩いて焚きつける。
　俊介は美和の前に跪いて、おずおずと聞いた。
「今更なんだけど、僕たちって付き合ってるんですかね？」
「えっ、付き合って……ま……」
　その瞬間、美和が倒れた。
「ええと、美和ちゃん先生？」
「ちょっと、酔いつぶれちゃったの？」
　紫と水樹が美和を揺さぶるが、美和は起きる気配がない。
　結局、美和は、俊介に担がれて退場と相成った。
　そのあとちゃんと話せたかは、ふたりだけの秘密だ。
　
　大人たちは引き続き酒を酌み交わす。
　猫になっていた道哉はこっそり物陰で人の姿に変じ、すっかり酔いつぶれた疾風丸の隣に戻っていた。
「良い酒はまだあるかい？　にしんとこんにゃくの串もいいねぇ。この味噌が最高なんだ」
　
　――酔った大人たちは囲炉裏の火を囲んで笑いあっている。夜はもうすこし、続きそうだ。

＜了＞

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あとがき

担当マスター：笈地行
ファンレターはマスターページから！

ご参加ありがとうございます。お酒だいすき笈地です。
思いがけずたくさんの方に美和ちゃんの相談に乗ってくださったこと、
驚きとともにお礼を申し上げます。
それぞれの恋バナ打ち明け話や酒の席だからこその思い出話も楽しかったです。

ときどき逢瀬を目撃されていた美和ちゃん先生と黒崎先生。
（８ページがこれまでのまとめっぽくなっています）

今後どうなるのか私も楽しみにしています。

みなさんにとって、今宵がよいお酒になっていれば幸いです。
それではまた別のシナリオでお会いしましょう。笈地でした。

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