お酒呑もうよ｜リアクション

お酒呑もうよ

羨ましすぎるおふたり様

　囲炉裏を囲んでいた未婚女子たちが色めきだった。
　おひとり様ばかりだったこの囲炉裏端に、とうとうおふたり様登場である。
「あああーーっ、朝衣ちゃんと彼氏さん！」
　前のめりに詰め寄ってくる美和に、朝衣も、朝衣の婚約者である住沢遥人も、ややドン引き気味である。
　朝衣は元寝子高生で、今は寝子島町役場勤務の公務員。社会人になってから食事の席で美和と一緒になったこともあり、そのとき恋バナをしたこともあった。
「朝衣ちゃんが制服着てたの、ちょっと前な気がしてたのに。大人な恋、育んでる？」
　こそっと小声で聞いて来た美和に、朝衣は曖昧な笑みを返す。
「ええ、まあそれなりに」
　酒が届き、この日幾度目かの乾杯がその場にいる全員で交わされた。
　美和は朝衣に興味津々でにじり寄ってくる。
「ねえねえ、紹介してよ彼のこと」
「ええと、彼は遥人さんと言います。洋食レストラン『青猫亭』のシェフで……」
　去年の秋に婚約したことと、現在は遥人のアパートで同棲中だということを告げると、美和はぶるぶるっと身震いして羨ましがった。
「それで、遥人さん。ご趣味は」
「なんです先生、そのお見合いみたいな質問は」
「いいじゃない。聞きたいんだもん」
「はは、先生面白いからお答えさせていただきます。僕も彼女もサーフィンが趣味なんです」
「サーフィン！」
　美和は瞳を輝かせる。
　サーフィン。やっぱり聞いた話な気がするではないか。
　――出会ったのは中学３年の夏休みで、相手は一つ上の先輩だったんです
　――波に乗る姿がかっこいい、というより美しくて
　いつか話してた彼？　自然消滅したって言ってた？
　そんな言葉にしない疑問と好奇心が、美和の視線からビンビン伝わってくる。
　ちょっと話題を反らせるつもりで、
「写真見ます？」
　と朝衣はスマホの中に自分と彼の写真を呼び出して美和に見せた。

「波に乗って海と風と一体になって駆け抜ける感覚が最高なの。ね、遥人？」

　美和は写真を見た途端、真っ赤になって酒を吹いた。
「ちょちょちょ、なによこの写真。ラブラブじゃないーっ！　見せつけてくれるわね！」
「ふむふむ。若いね」
「いいわね、私にもこんな頃が……あったかしら？」
　文也と妙子も興味深そうに覗き込んでガン見だ。美和は興奮しすぎて息も絶え絶えである。
「羨ましすぎ死しそうよっ。同棲！？　既成事実！？　なにそれおいしい？」
「先生、もう何言ってるかわかりません」
　すっかり酒が回ってる美和を、まだ酒も人生経験も浅い朝衣には止められない。
　ここは拙者が、と文也が落ち着かせるように美和の肩を叩く。
「やつがれとしては、先生のハートを射止めたお相手の話のほうが興味あるなあ～。彼のどこがいいと思っているのかな？　ほらほら、このお兄さんにいろいろ話してごらんよ」
　誰かにそう聞かれるのを待っていたのかもしれない。
　美和はきゃっと頬を押さえて、乙女チックに語りだした。

このページにイラストを設定する