ゆく年くる年。
酉年の寝子暦1371年が去り、戌年の寝子暦1372年が来ようとしている。
大晦日の夜というものは、日本中の名のある寺社仏閣が年越しの初詣客で混むもので、旧市街にある寝子島神社も多分に漏れずであった。島内のみならず島外からも初詣客が訪れ、お三夜まつりに勝るとも劣らぬ賑わいである。
ところが、今年の大晦日の寝子島神社はちょっと様子が違っていた。
「みみみみーーん! 知らないうちに、いぬみん星にきちゃったのかな?」
初詣に来ていた
狗民 きとりは、あたりが犬だらけなのを見回して、不思議そうに首を傾げた。二足歩行でちょこちょこ歩いている犬さんもいるし、人の姿に犬耳や尻尾が生えている者もいる。
「そういえば、さっきテオの声で『寝子島神社が犬』って変なワードが頭に響いてきたねぇ」
きとりはいぬみん星のお姫様を自称するだけあって、不思議なことにはそんなに抵抗がない。すぐに状況を受け入れ、あたまの上の本体さんに語りかける。
「えへへ。いぬさんいっぱいでうれしいねー!」
◇◆◇◆◇◆◇
――ことの起こりは数刻前。日暮れ直後だったが、あたりは雪灯りでほんのりと明るかった。
屋台が並び始めた境内に、群れ成してやってきたのは、たくさんの犬たち。
先頭には犬たちのボスらしき茶色の柴犬な頭をした青年がいた。
柴犬頭の青年は、本殿の前までくると大声で喚いた。
「お三夜! 出てこい!! オレと勝負だ!!」
たまたま神社に来ていた
穂村 敦が、なんだなんだ、と見ていると、本殿の戸がゆっくり開いた。
中から姿を現したのは、寝子島神社のご祭神、
お三夜さまだ。
「垂れ耳森のお一努(おいぬ)、またおぬしか。
よくも飽きずに12年に一度、戌年が来るたびに勝負を挑んでくるにゃあ」
柴犬頭の青年――お一努さまは、お三夜さまへ向かって吠える。
「寝子島は猫ばっかり優遇されている! だから犬界を代表してオレが今年こそ、おまえを倒し! 寝子島を犬の島にしてみせる! オレと決闘しろ、お三夜!」
「いやにゃ」
「なんだと!」
「お一努は暑苦しすぎるにゃ。そんな面倒なことしたくない……わん、わんわーん?」
何が起こったのだろう。お三夜さまの猫耳が黒い犬耳に、細くしなやかだった尻尾もふさふさな犬尻尾に変わり、全身も少女から黒い仔犬に変わってしまったではないか。
お三夜だけではない、成り行きを見守っていた敦や、近くに寝そべっていた猫や、ほかの者たちも、みんな、犬耳が生えたり犬になったりしてしまったのである。
「なんだかわからないが、オレたち犬の熱い思いが奇跡を起こしたに違いない!」
お一努は、拳を上げて仲間の犬たちを鼓舞した。
「いまなら絶対にお三夜に勝てる!」
お一努の号令に、吠えまくる犬たち。
「わおーん! 勘弁してほしいワン!」
仔犬になったお三夜さまは、走って逃げだした。
「犬の神と猫の神のケンカか? ……って、喋れはするのか」
敦としては、ケンカと聞いては血が滾る。
お三夜さまは走りながらワンワンと叫んでいた。
「誰か!
垂れ耳森に生えている大南天の実を取ってきてほしいワン!
お一努と犬一派は、大南天の実の花火の音が大嫌いだワン!
大南天の実を打ち上げればお一努たちは逃げていくワン!」
「垂れ耳森? 大南天の実の花火? なんだそりゃ」
「詳しくは一之助と二右衛門に訊くワン! 頼んだワン!」
お一努とたくさんの犬たちに追いかけられて、お三夜さまは神社の奥の森のほうへ逃げて行った。
……さてどうしよう。
自分も含め、みーんな犬化してしまっている。
「一之助と二右衛門って鳥居んとこの狛猫だっけ。って、うわ。あいつらまで狛犬になっちまって」
敦が頭を掻いて困っていると。
「やれやれだな」
本殿の縁の下で寝ていたテオがあくびをしながら顔をだした。
「話をきいてりゃあ、お三夜とお一努のケンカは12年に一度のルーチンらしいな。まあ、お三夜が言っていた通りにすればなんとかなるだろ。とりあえず島のもれいびどもには声をかけておいてやる」
寝子島神社が犬だ。
そんな訳の分からない言葉をもれいびたちに送った直後、
テオも灰色ハチワレな犬になった。
「わん! わんわーん!」
いつになくはしゃいだ様子で、境内を走り回りだすテオ。
猫のときはうんざりだった雪が、楽しくって仕方ないようだ。
よく見れば、アホ毛の犬までいる……
野々 ののこだろう。
さよなら今年。ようこそ来年。その狭間にあるつごもりの時を、あなたはどう過ごすだろう。
こんにちは。
大晦日を担当させていただくことになりました笈地行(おいちあん・けもみみスキー)です。
今年は少し毛色を変えて、「猫の島でわんわんイラストキャンペーン」と連動で、
犬になっちゃった大晦日をお届けします。あとからイラストもぜひご活用くださいませ。
(いつも通りのフリーなアクションも受け付けています)
狗民 きとりさん、穂村 敦さん、ガイドへのご登場ありがとうございます。
ご参加いただける場合は、ガイドにとらわれずご自由にお過ごしくださいませ。
このシナリオで描かれるのは……
■日時:大晦日の朝から年越し、そして初日の出あたりまで。
■天気:雪、明け方には晴れる予報
■今年は寝子暦1371年・酉年、新年は寝子暦1372年・戌年
このシナリオの概要
初詣客で賑わう寝子島神社。
あなたは、テオの声を聞いたり、それとは関係なく初詣に来たり、
ふらっとまぎれこんだりしました。すると、あらフシギ! あなたも犬になってしまいます。
言葉は、今夜だけ、どんな姿でも通じます。
ろっこんも、不思議と思われにくいのでひとの前でも発動しやすいです。
すべてが元に戻れば、きっと「夢だったのかな」と思って、なんとなく大丈夫になるでしょう。
◆犬化(あなたの見た目について)
あなたは犬化しました。犬になっている部分はさまざまです。
四足歩行の動物の犬になっていたり。
二足歩行の「いぬ」になっていたり。
体の一部だけ犬になっていたり。(犬耳、犬尻尾、体毛は生えているが姿は人型等)
お好みの犬化をお楽しみいただけます。
どんな見た目になっているか、アクションにお書きください。
◆事件にかかわる登場NPC
お一努さま(おいぬさま)
身体は人間、頭は茶色の柴犬、という姿。
一生懸命で、努力友情勝利な主人公タイプなのだが、努力の方向が勘違いぎみなのが玉にキズ。
お三夜さま(おみやさま)
寝子島神社のご祭神の黒猫。年に一度お三夜の夜にのみ現れるのだが、最近なにかと姿を現しがち。
黒い仔犬になって、寝子島神社の奥の森を駆け回りながら、お一努さまから逃げています。
心配性の一之助・しっかり者の二右衛門
寝子島神社の狛猫たちですが、狛犬になってしまっています!
心配性の一之助は、寝子島神社の奥の森に入って、お三夜さまを守ろうと走り回っています。
しっかり者の二右衛門は、垂れ耳森の奥へみんなを案内してくれます。
参加したいパートを、【A】【B】【C】いずれかから1つ選び、記号をアクション冒頭に書いてください。
【A】犬になっちゃった(垂れ耳森へ)
以下の情報は、一之助・二右衛門から聞いたものとしてPC情報として扱って構いません。
■垂れ耳森
霊界の片隅にある雪深い森。
今夜だけ、耳福池に飛び込むと、垂れ耳森へ行けます。
ふだんはお一努さまたちの根城で、たくさんの犬が暮らしていますが、
いまは犬たちは寝子島神社にカチコミ中で森の中は静かです。
■大南天の実
雪の森を奥に進むと、巨大な南天の木が生えています。
木には1尺(直径30センチ)ほどの真っ赤な南天の実がなっています。
火を付けると、花火みたいに打ちあがって、綺麗な火花をあげて弾けます。
30個ほど集めればオッケー。寝子島神社に持ち帰って、火を付けて打ち上げましょう。
間違って途中で火を付けないように注意してください。
■妖怪フジコ
大南天の木の実は、犬たちにとって危険なので、周辺は禁忌の地となっています。
お一努さまは、誰も大南天の木に近づけないよう、妖怪フジコに大南天を守らせています。
妖怪フジコはなぜか、寝子高教師の富士山 権蔵(通称・フジコちゃん)によく似ています。
犬たちを従えがちな妖怪フジコですが、お一努さまにメロメロで、お一努さまの言うことは聞きます。
<妖怪フジコの必殺技>
「お座り!」………………………犬化したPCさんはお座りせずにはいられません。
「お手!」…………………………犬化したPCさんはお手をせずにはいられません。
「首輪よ!」………………………「お座り!」「お手!」で大人しくなったPCさんに
素早く特製の首輪を嵌めようとしてきます。
「私の犬におなりなさい!」……首輪を嵌められたPCさんは、妖怪フジコのしもべになって、
自分の意思に反して味方を攻撃してしまいます。
◆登場NPC
ねこねこ記者
週刊かぎしっぽのねこねこ記者は、ぶちでかぎしっぽの「いぬいぬ記者」になっちゃっています!
事件と知って取材すべく、みんなについてきています。
「語尾を『ワン』にするか『にゃー』にするか迷うにゃー」
七夜 あおい
髪と同じ色の犬耳としっぽが生えてとってもキュート。
弟・ソラと寝子島神社の年越し初詣にきていたが、
ソラがわんこになってしまい解決せねばなるまいと垂れ耳森へ。
「ソラ! お姉ちゃんがなんとかする。寝子島神社から出ないで待っててね!」
【B】犬になっちゃった(寝子島神社で)
犬になった姿で、寝子島神社での年越しを楽しみます。
境内には正月飾りや、甘酒、団子、豚汁、もつ煮などの身体があたたまる屋台が並んでいます。
細かいことは気にせず、のんびり楽しんじゃいましょう。
森の奥で繰り広げられている、お三夜さまとお一努さま(+わんちゃんたち)の
追いかけっこに加わってもかまいません。
◆登場NPC
野々 ののこ
アホ毛のある犬になってわんわん楽しんで走り回っています。
テオ
灰色ハチワレな犬になって、境内で雪が降ってくるのにじゃれています。
黒崎 俊介&久保田 美和
黒いラブラドール・レトリバーと、赤い眼鏡をかけたチワワになっています。
ふたりでお忍びで初詣に来ていたようで、寄り添ったりしてちょっといい雰囲気です。
ウォルター・B
日本の年越しを味わおうと寝子島神社に来たところ、
垂れた黒の犬耳と黒のしっぽ(苗字が【ブラック】ウッドだから?)が生えました。
あまり動じず、境内を見て回っています。「ふうん、不思議なこともあるものだねえ」
七夜 ソラ
姉・あおいと年越し初詣に。寝子島高校受験の合格祈願しにきていましたが、
とっても可愛い黒の柴犬(犬耳ではなく本物の犬)になってしまいました。
あおいに「寝子島神社から出ないで待ってて」と言われたものの、途方に暮れています。
「くう~ん(どうしたらいいんだ)」
【C】<フリー>あなたの大晦日
寝子島でも、寝子島の外でも、星幽塔でも、どこでもOKです。
自宅や寮、帰省先や旅先。お店や海岸、駅前。
そしてどこかのイベントなど、どこでもお好みでご自由にどうぞ。
【C】の場合は、神魂の影響は受けず、寝子島神社周辺の異変も知らず、
犬ではなくもとのままの自分で、ふつうの年越しをしているとお考えください。
大晦日の寝子島では、恒例の年越し行事が行われています。
2つほど紹介します。年越しの過ごし方に悩んだら、参加してみるのはいかがでしょうか。
『星呼祭』
カウントダウンを祝う『星呼祭(ほしよびまつり)』が今年も行われます。
スカイランタンを飛ばして新年を祝うイベントです。
幾つものスカイランタンが空へ昇っていく光景は、幻想的でとても美しいです。
スカイランタンは無料で配布中。自分たちで絵や文字を書いて飛ばすこともできます。
『大観覧車カウントダウン』
シーサイドアウトレットの大観覧車は、
年越しの直前に一度消灯して、カウントダウンと同時に派手にライトアップ☆
年越しの瞬間には、すぐ近くの海岸で花火も打ち上がります。
登場できるNPC
◆プロフィール登録のあるNPCについて
特定のマスターが担当しているNPCでなければ、基本的にどなたでも登場します。
※【A】【B】に登場するNPCはその場所でのみ登場します。
アクションで同行を希望するNPCをお書きください。
NPCの行動はご希望に添えない場合もあります。
NPCを独り占めするアクションは対応いたしかねます。
◆Xイラストのキャラクターについて
Xイラストのキャラクターを描写する場合、
PCとXキャラの2人あわせて「1人分」の描写です。
※Xキャラだけで1人分の描写とすることも可能です。
その場合は、PCさん自身は描写がなく、Xキャラだけが描写されます。
Xキャラのみの描写をご希望である旨を、アクションにわかるようにご記入ください。
※Xキャラをご希望の場合は、口調などのキャラ設定をアクションに記載してください。
Xキャラ図鑑に書き込まれている内容は、そのURLだけ書いていただければ大丈夫です。
それではご参加お待ちしています!