スベるんです！｜リアクション

スベるんです！

　　【フツウ防衛の為に】

　ねこったーの情報が着実に拡散されつつある。友人である御剣刀と、小山内海に連絡を取り、ねこったーを表示させたままに携帯をしまう。
　そして、完全に氷の道で覆われたキャットロードで、桜庭円は準備していたスケート靴へと履き替えて移動を開始した。
　ところどころに、氷がごそりと無くなっており、その代わりにペンギンらしき形の彫像が見受けられる。
　氷の無い場所を歩くのは難ではあったが、無事に目的地の魚屋まで辿り着き、ペンギンの食べていそうな魚を何匹か購入する。

　「にゃーくん行くよー」
　お買い物の間、少し離れたところで、新鮮そうな氷をかしかしと削ったり、つるつる滑ってその場でころんと転がったりしている、いつも一緒の猫『にゃーくん』に声を掛けてスケート靴を履き直す。
　「ん……？　ペンギンの４歳って──」
　にゃーくんを見ながらふと思った疑問を、ねこったーからマリンパラダイスのアカウントに送ってみる。

　『ペン太くんって繁殖期で独り身？』

　返事はすぐに返ってきた。
　『はい。ただ、まだ巣作り等は行っていませんでしたが……』　
　『その前にペンギンの誘致があったって、ねこったーにあったけど、それってメスですか？』
　『あ、はい。それが何か……』
　円は何かを確信した様に、以降の会話を無礼にならない程度に返事を返して、ねこったーでのやりとりを切り上げた。
　「いくよ！　にゃーくん！」
　そしてスケート靴の紐を締めなおし、にゃーくんを肩に乗せ、円は全力で氷の上を滑り出し始めた。
　滑りながら考える。他の二人に遭遇できるかは、勘！　きっと出来る！　当ては何一つとして無いけれども！

　それはある種の賭けだった。一人で行っても何か出来る保証はない。更にはペン太郎にも会えないかもしれない。　そもそも整っていない環境でスケート靴で滑る事自体がかなりの危険を伴う。
　その無茶振りに、円のろっこんが発動した！

　【発動条件】
　自発的に、危険度の高い行動を取ると発動
　【能力】
　発動すると運が良くなる。危険度の高い行動を取り続けると、運もその分上がって行く。

　幸運の女神は彼女に微笑んだ。
　遠くに見覚えのある少女の姿が見えて来る。
　少女のろっこんは、

　【発動条件】
　筆記具で空間に線を引く
　【能力】
　筆記具（ペンや筆など）で描いた線の軌道に沿って物体を加速させる

　そう、彼女は途中でダンボールを下に敷いて自身のろっこんを使いソリの要領で走る小山内海の姿を見つけたのである。
　「海ちゃん！」
　『まどかちゃん』
　氷の張られていない所でお互いが止まる。
　「会えて良かったっ。刀くんは？」
　『まだ　でも　きっとくる』
　海の言葉には確信があった。