スベるんです！｜リアクション

スベるんです！

　　【鳥の呼び声】

　「…あら」
　イワトビペンギンのペン太郎、行方不明。情報求む。
　丁度そのペンギンに会いに来た、大天使天吏は張り紙を前に、思わず小さいながらも声を上げて驚いた。
　天吏は良くこの寝子島マリンパラダイスへ足を運んでいた。もちろん海の鳥、ペンギンに会いにである。
　天吏は行方不明になったペン太郎に思いを馳せる。
　寝子島は自然に溢れているとはいえ、元は開発された島だ。
　ボートに車、排水諸々……ペンギンが歩き回るには、危険な要素に溢れている。

　張り紙を横目に、急いでいてもそれが立ち振る舞いなのであろう。ふわりと空気のように移動して、入館して飼育員に探索の手伝いを申し出た。
　「…あの、ペンギン探索の、お手伝いがしたいのですが」
　「ああっ、人手が足りていないんだ！　是非お願いするよ！」
　──遠くから飼育員の手の回らないところで賑やかなペンギンの鳴き声が聞こえてくる。
　目の端に止めれば、それは見覚えのある女生徒、御巫時子の周辺にペンギンが群がっている光景だった。

　時子の方も気付いたのか、軽く会釈をする。ところどころで良く会う相手に、こちらも会釈に留め、飼育員に静かに尋ねてみる。
　「1つ…お願いがあります。ペンギンをおびき出すために、普段ペンギンが食べているものを与えていいでしょうか？」
　「ああ、朝ごはんを食べていないからね。あげすぎない量だったら大丈夫だよ。とは言ってもペン太郎は大食らいだから多少じゃ物足りないかも知れないけれどもね」
　軽く笑ってから、そのペン太郎がいない事が飼育員の顔に陰を落とす。
　大切にしていたペンギンがいない。その様子を心を痛め見ながら、天吏はその場を離れ、マリンパラダイスのパンフレットを手に取った。

　そこにはアクセス情報として、寝子島の地図が載っている。
　館外に出た彼女は、氷の道が恐らくペン太郎の通った道であろうと予測をつけて、氷の道をものともせず後を辿りながら地図に氷の道を書き込んでいった。
　イワトビペンギンに今の気候は暑いはずだ。彼女は氷の道を辿りながら、ペン太郎が向かいそうな水辺をと思い捜し始めた。

　　【ペンギンとの語らい】

　『──だったんだペン！』
　『ある日突然の出来事だったんだペン！』
　「なるほど……そういうことでしたか…」
　御巫時子はペンギン達の話を聞いて、全てを納得したように頷いた。
　時子はマリンパラダイスのペンギンとは仲が良い。先程まで飼育員がペンギンが一気に彼女に向かって集まっていたのを不思議そうに見やっていたが、その場を離れた隙に時子はろっこんを発動させていた。

　【発動条件】
　会話したいと強く願う。
　【能力】
　鳥類と会話できる。

　これで、一見ペンギン達が一斉にクェー！　と鳴き始めた言葉も時子には理解が出来る。
　我も我もと集ってきて会話をしたがるペンギン達の話題はもっぱらペン太郎の心配で溢れ返っていた。
　「ええ、必ずつれて帰ってきますから……待っていてくださいね…」
　理由は分かった。だが、まずはペン太郎の保護の方が先だと判断して、時子は不安がるペンギン達に優しく声を掛けて館外へ出る。

　躊躇わず氷の張っている道を選んで歩く。途中からいっそ滑った方が早い事に気付いて、勇気を出して足を氷に任せて、止める時は瞬発力勝負で氷が張っていない僅かな部位に足をつく。

　「…そうでした…。ペン太郎さんもおなかが減っているかも知れませんね…お魚を買って行きましょう……」
　中途、寄り道をしながらも、彼女は氷の道を往く事を躊躇わずに進んでいく──
　