スベるんです！｜リアクション

スベるんです！

　「皆、やっほーなのだ！　円ちゃん達もペンギン探しなのだ？」
　両手に雑魚と氷の入ったバケツを一生懸命抱えて、デジカメを首に掛け現れたのはこのねこったーの投稿、

　『氷帝ペンペン来襲！？
　マリンパラダイスから脱走したペンギンが、スピードスケーターのように軽やかに高速移動していったという噂ががが！？
　目の錯覚か厨二的ペンギン爆誕か！？　求む追加情報！』
　──あの爆誕伝説を投稿した後木真央。その人だった。

　「円ちゃん、今日もにゃーくんは可愛いのだ！　もふもふはすはすして襲いたくなるけれども、今日は我慢するのだ！
　……ふふふ、メインのご飯につい噛み付きたくなるような可愛らしさ溢れるまるっとしたペンギ……はっ！」

　「…………（食うのか…？)」
　心の声の語尾口調は分散されど、その一言を集約集中した視線に、
　「あんなにむっちりしておきながら、それをはみはみするという妄想をするなという方に無理があるのだ……」

　つい出掛けたよだれを慌てて飲み込んで、思わず俯き視線をそらす真央。

　「そう言えば、刀くんは今日も両手に花なのだ」
　「……い、いや。　いつもこうだから実感が」
　そんな冷やかしを入れれば、小山内海は御剣刀の鈍感ぶりに少し拗ねた様子で顔を逸らす。

　ここまで来る道中、真央はねこったーを確認して『本土に向かっているかも知れない』という情報に好奇心でいつもくりくりしている可愛らしい目を大きく見開いた。
　真央はてっきりマリンパラダイスから、水辺に一番近い寝子ヶ浜海浜公園か大観覧車先の桜川中州方面へ逃走したと推測していただけに、まさか本土一直線だとは、予想もしなかったのだ。

　「お願いなのだっ。真央ちゃんを助けると思って、連れて行って欲しいのだ！
　ペンギンは暑いのが苦手な上に、ちぎりんみたいに困ってたら助けないと……でもペンギンやっぱり丸々してかわいいのだ美味しそうなのだ…ハッ！？」

　『ペンたろう　せっかくさがすひと　いるのに　たべちゃ　だめ』
　つかさず、海がツッコミを入れる。その間にも、残りの二人は早速、真央の頼みを聞き入れ、一緒に連れていく方法について思案している。
　『そり　いっしょに　のろう
　きっと　かかえた　かたなくんの　ろっこんより　はやい　』

　この時の海は事実を言っただけだったのだが、その言葉は最速自負の男・刀のプライドにザクッと突き刺さった。
　海にもちろんその自覚は無い。
　しかし、相手の恋心には気付かずとも、無意識のうちに気になっている女の子からの言葉だっただけに、それはトラウマになりそうなレベルであった。

　「わあ、ありがとうなのだ！　是非言葉に甘えるのだ！！」
　一人が無言のダメージを受け俯く最中、こうして４人は、一斉に氷の上を滑り始めた。

　そして……惨いまでにも早く、事件は起こった。

　──ころりん。
　
　「うにゃっ？」
　海の後ろに座っていた真央がソリから転がり落ちたのだ！
　バケツと中身は無事に死守したが、余りに自然な転がり方故に、海は落ちた真央に気付かないまま進んで行ってしまったのである。
　「まっ、待って欲しいのだ～っ！　だ～！　だ～…」
　声の末尾にエコーが入る。しかし無常にも、ダンボールソリのスピードは速く、声さえ届けば直ぐに戻ってきてくれていたであろう声が海には届かない。
　
　「あううううう……」
　取り残されてひんやりした地面は、不幸にも置いてけぼりとなってしまった真央の心も、涙目でほんの少しひんやり寒く切なくさせた。