スベるんです！｜リアクション

スベるんです！

　　【フツウの死守】　　
　
　『氷帝ペンペン来襲！？
　マリンパラダイスから脱走したペンギンが、スピードスケーターのように軽やかに高速移動していったという噂ががが！？
　目の錯覚か厨二的ペンギン爆誕か！？　求む追加情報！』

　「これなら、確かにこれなら情報は集まるかも知れないが……」
　内容的には正しく炎上……もとい狙った情報収集は確かにハッシュタグを中心に集まってきていたが──
　しかし、これでは、代わりにその内容に興味を持って、キャットロードに人が集まってしまうかもしれない。

　この季節に地面が凍りつくなんてろっこんか神魂の影響以外には考えられない。
　フツウを護る。それを使命として動く御剣刀に躊躇いも戸惑いも無かった。
　桜庭円と小山内海と連絡を取り合い、キャットロードでの合流を目安に家を飛び出す。
　外に出て、刀は目を丸くした。

　キャットロードどころではない。既に旧市街の、道を一本挟んだ向こうまでもが既に凍り付いているではないか。
　「これは、拡大どころの騒ぎじゃない！」

　その情報を携帯からねこったーに打ち込む。

　『キャットロードから、旧市街地まで氷の道を確認』

　必要最低限だけを書き込み、刀は大きな文房具店へ飛び込んだ。
　購入したのは木の棒とそれを支える重し。そして巨大なダンボールに精一杯の大きさで目立つように文字を書く。

　『今回の氷は特殊な道具を使ったイベントなんです！』

　同じような看板を数個作っては軽々と抱え、旧市街地の凍りついた道路とキャットロードの入り口まで置いておく。
　「これで、少しは落ち着いてくれればいいんだが……」
　余り効果は無いかもしれないが、全く無いよりはマシだ。
　そう言い聞かせてつつ、辿り着いたキャットロードに足を踏み入れる。
　あちこちにホラーを思わせる恐怖を滲ませたペンギンらしき氷の彫像に目が行くが今はそれどころではない。
　「氷の無い場所は走れるが……氷のある箇所は」
　僅かに溶け始めた氷は水分を含んで、若干でこぼこに再凍結している箇所も発生しており、更に危険な事になっていた。　
　それでも、刀は諦めない。
　「わざと滑らせてスケートの要領で氷を辿ってみるか」
　若干不安ではあったが、身体のバランスが見事に取れた刀は、実行してみれば難なく氷上の人となった。
　今は朝、だが時間が余りあるとは思えない。転んでいる『ひと』もいるだろうと思えば、自分のろっこんも発動はし辛いだろう。
　「それでも…やるしかないよな」
　単独で動くよりも、チームワークがものを言う事は、この高校に入ってから初めて知った。それは、とてつもなく大事で強い力だった。
　一人で暴走するよりも、まず仲間と合流しなくては。
　瞳を閉じて、脳裏に撃鉄をイメージする。
　刀のろっこん、発動！

　【発動条件】
　ガチン！と、撃鉄が落ちるイメージをする。
　【能力】
　自分の心身と、衣服や身に付けている物を加速して、高速行動ができるようになる。

　滑る氷の上を更に加速する。
　これも危険な行為であったが、自分が体勢を崩す前にバランスを取る事で、無事に事故などには繋がらなかった。『ひと』の通行人も増え始め、刀のろっこんの威力が落ちていたのも無事に済んだ要因の一つかも知れない。

　『あ　かたなくん　きた』
　「刀くん！　待ってたよ。ここにいれば会えるんじゃないかなって思ったんだ！」
　そこには、円と海が待ち焦がれた様子で立っていた。
　片方はスケート靴。もう片方はろっこんを使用し、それで滑ってきたらしいダンボールを片手に持っている。
　「二人とも、準備が良いな……」
　「もっと先でも合流出来るんじゃないかなって思ったけど、一度情報を整理しようと思ってね」
　円が立つのも困難なスケート靴を一時普通の靴に履き変える。
　「なるほどな、ねこったーは基本情報だとして。道はやはり旧市街地……本土方面に伸びていた。
　やはり、ペンギンとろっこんは無関係ではないと判断して間違いなさそうだ」

　『このじきに　こおり　へん
　たぶん　ペンたろうのしわざ』
　刀が同意するように頷いた。
　『こおりの　みちたどれば　ペンたろう　あえる？』
　「うん。恐らく間違いないね」
　円がどこか確信した様子で告げる。
　「問題は、本土に渡る為にはどうしても寝子島大橋を渡らなきゃいけないことだと思うんだ。
　本当に本土に渡るなら、渡るのはものすごく危険だと思う」
　『くるま　はしってる　きけん』
　「よし、急ぐぞ！」
　そうして、各人が各々に力を入れ始め氷の道を走りぬく準備点検を行い始めた時。

　「あ～っ！　こんにちはなのだ！」
　──その声は響いた。

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