スベるんです！｜リアクション

スベるんです！

　　【タイクツだった一日の始まりは】

　──今日も、否、今日こそは楽しい事はないだろうか。
　休日に、青物といきはベッドに肘を立て、うつ伏せに寝そべりながら何気なく携帯をいじっていた。
　「あ～あ、今日も何気ないタイクツな日じょ……お？」
　一人の時にしか決して零さない様な、僅かに気だるそうな表情で呟いた矢先。
　目に入ったキャットロードとペンギン失踪事件に溢れるねこったー情報に、といきの瞳は一気に輝きを増した。
　
　『氷帝ペンペン来襲！？　
　マリンパラダイスから脱走したペンギンが、スピードスケーターのように軽やかに高速移動していったという噂ががが！？
　目の錯覚か厨二的ペンギン爆誕か！？　求む追加情報！』

　「にゃっ！！　これは確かに『新たなるろっこんペンギンさん爆誕！』って感じかにゃ！」

　──といきにはそれを言うだけの確信があった。
　といきは過去にもアクアリウム内を瞬間移動するペンギンと遭遇したことがある。
　それに併せて、今度の失踪事件だ。
　といきの中で、ペンギンがどんな不思議な力をもっていようと、一度目の当たりにしていればなんら不思議な事ではない。

　これはベッドに寝転がっている場合ではない。
　ベッドから跳ね起き、鏡に向き合いテンションにあわせて派手な色合いのエクステをつけていく。
　その気分は高揚する一方だ。
　リュックを片手に寮を飛び出す。
　陸上部で長距離ランナーを目指し、山道を好む持久力をもってすれば星ヶ丘寮からキャットロードまであっという間だったが……

　「うにゃ～…これは予想以上に凍って──にゃー！　つるつるで危ない！　危ない！」
　転びかけるのを、慌てて持ち前のしなやかな筋力でバランスを取って転倒を防ぐ。
　予想以上の氷漬け状態だが、冷気漂う朝日のまぶしさの中で、といきは予め用意しておいたスパイクに履き替えて、ゆっくりゆっくり歩き始めた。
　「あのペンギンさんと同じなら、ペン太郎君も同じ位『あの臭い』がするはずだにゃ！」
　といきは、あの臭い──海洋生物特有の臭いにプラスして、環境に適応した海を飛ぶ鳥としての宿命──要するに地上に住む人にとっては完全な『異臭』を頼りにペン太郎を捜そうとしたのだが。
　脱走は従業員のいない夜。朝の光が煌々と差す中でその臭いは殆ど消えつつあった。
　「……。うにゃ～、これは難しいかにゃ。
　いや！　諦めたらそこで試合終了だにゃ！
　こっち！　おそらく！　多分！」
　そして、といきは勘で歩き始めた。
　氷の道はほぼ一本道。そして、それはマリンパラダイスを背としての問題解決への第一歩だった。

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