スベるんです！｜リアクション

スベるんです！

　　【自転車が使えるようになりました】

　『という訳で転がり落ちてしまったから、真央ちゃんスパイクタイヤのついた自転車を借りてきたのだ！』
　『この初夏にどこから、というのは敢えて聞かないでおこう』
　『失礼なのだ！　ちゃんと自転車屋さんから借りてきたのだ！』

　事件を既にねこったーだけではなく、本来無駄口は一切聞かない使用人からまで耳にしていた八神修は即座に情報収集して、情報を纏め上げていた。
　『氷の道は、旧市街を抜け、杜の湯まで確認された模様。
　方角的に寝子島大橋の方まで向かっているのではないかと言われている。道を辿ればペン太郎に会える可能性は高い』

　ねこったーに情報を流して、キャットロードで返信を見ると、丁度買い物に来ていた常闇月からの返信があった。
　
　『情報感謝します。この事件の解決に努めたいと思います。人が転ぶと危険です』
　『分かった。じゃあ友人と待ち合わせをしているから、そこで落ち合おう』
　『ねこったーでは、携帯に文字を入力する時間が取られます。電話番号の交換をお願いできませんか』
　『分かった。この非常時だ、携帯番号はダイレクトメールで送るから何かあったらこちらに掛けてくれ』

　「溶かさなきゃ。溶かさなきゃ……！　あ、真央ちゃん！」
　「タルトちゃんなのだ！　元気なのだっ？」
　「う～んっ、それがいくらお湯を掛けても氷が溶けないんだ。根本の原因を何とかしたいんだけど……」
　バケツを何個も持った響タルトはキャットロードの氷を溶かそうと頑張っていた。しかし、成果としては微々たるもので、自然に解けるのを待ったほうが早そうな気配すら見え隠れする。

　タルトがいつも付けている、猫のカチューシャがとてもよく似合っているが、もし動くとするならば、それは力なく垂れ下がっている事だろう。
　「タルトちゃんならペンギン甘噛み許されると思うのだ…ハッ」
　「もしかして、真央ちゃんペンギン食べるつもり……」
　「い、いやっ、そんなまんまるならきっと焼いて良し！　煮るも良し！　でも一番おいしそうなのはあのまん丸の体とかぷっとあま噛みしたら、味より何より、幸せなれそうだとか……ハッ！」
　「やっぱ食べるんだ……っ」
　「しまった……！」
　「そこ、食べるとか食べないとか不穏な話はしない」
　所々聞こえた話題から、内心、ペンギンを捕獲したら食用にされてしまうのではないかという一抹の不安を感じつつも、修と月がやっと集合場所に到着した。
　
　
　集合場所では、スパイクタイヤをつけた自転車を見せて食ペンギンの話題に花を咲かせていた後木真央が待っていた。
　氷が溶け掛かった道は再凍結している場所もあり、普通の自転車ならば滑れるものでもないだろう。
　そして、体力が少しずつついて来たとは言え、根本的に体力の少ない修にとっては、改めて自転車を見れば顔を引きつらせずにはいられない。

　スパイクのついた氷上も走れる自転車は、正直まだ修の体力的に手に負えるところではなかった。
　もし自転車にスパイクがついていなかったか、氷を分解で破壊するにしても、自転車そのものをこぎ切り目的地に達成する自信は無かった。
　「氷の上は滑りやすい……私は、塀や屋根伝いの高所を移動します。自転車はそちらで」
　月が、地形を把握するように辺りを見渡す。
　「それでは、目標発見時の行動についての指示をお願いします」
　「……。それなんだが……すぐに捕まえるのではなく、ペン太郎の望みを聞いてやらないか」
　逃亡した目標は捕縛する。これは常識だと思っていた月は、その言葉に訝しげに首を傾げる。