スベるんです！｜リアクション

スベるんです！

　　【守るべきものは何ですか】

　ねこったーが何やら騒ぎになっているらしい。
　風雲児轟はねこったーを開いて表示されている情報を整理した。
　
　「いきなりできた氷の道に逃げたペンギン──どう考えてもペンギンがもれいびだ！」
　確信に確信を重ね、僅かな驚きを重ねつつもはっきりと声を上げる。
　しかし、現実。まずはどこで何をすれば良いのか。
　困っている人はたくさんいる。マリンパラダイスの人々、道が凍って滑っている人。

　人を助けたい、その焦燥に駆られながらもまずは原因であるペンギンの捕獲に心が止まった。
　ねこったーに情報として試しにその被害の規模を知ろうと。質問を投げかける。
　『氷の道どこまである？』
　返信はすぐに帰ってきた。
　『氷の道は、旧市街を抜け、杜の湯まで確認された模様。
　方角的に寝子島大橋の方まで向かっているのではないかと言われている。道を辿ればペン太郎に会える可能性は高い』

　その発信者は、八神修。轟にとっては信頼出来る相手の情報だ。

　併せて、マリンパラダイスの情報から、『イワトビペンギン』の写真をアップする。幸いにして、鶏冠がかなり特徴的だ。こんなのが移動していたら、直ぐに情報が集まるだろう。

　……しかし、それから待つことしばらく。目撃情報が殆ど現れない。
　否、無くは無いのだが、
　『氷の道と共に現れて、瞬時に風のように駆け抜けていったから、本当にあれがペンギンかどうかも分からない』
　という意見が大半を占めたのだ。よく流れる爆誕伝説の内容は氷の道とペンギン行方不明の、２つの情報をミックスしたものなのだろう。
　キャットロードへの道を走りながら考える。
　何しろその速度である。追いかけて滑ろうにも、今からのペンギンの確保は氷の道を滑っても追いつけるかどうか……

　そこへ、一人の老人がキャットロードを渡ろうとして転ぶ様が目に入った。氷はあちこちが大分溶けかかっていたがそれでも滑れるほどには残っていたし、危険な事には変わりない。

　「大丈夫ですかっ！？」
　転んだご老体を助け起こし、改めてキャットロードを見渡した。
　氷を溶かそうと必死になっている人。こけないように、慎重に緊張しながら歩く人。

　……ここにも、困っている人は沢山いる……

　ペンギンを捕まえるには間に合わないかもしれない。だが、ペンギンを見つける事はこの状況を元に戻すために大事な事だが、だからと言って、困ってる街の人を見捨てる理由にはならない。
　「…大丈夫ですか、立てますかっ？」
　溶け始めた氷に自転車での移動を始めた人も現れ始めた。それでも、目の前の困っている人を助けない理由にはならない。
　せめて、間に合わなくても。と氷がまだ残っているほうへ目を向けながら、ペンギンが向かったそちらへと足を向けつつも、轟は目の前で困っている人を助けることに奔走する道を選んだ。
　氷が解け始めたからと自転車で移動しようとする人々が出始め、転ぶ都度助けに入る。ペンギン捕獲は間に合わないだろう。
　だが、彼に後悔はなかった。