寝子島の風にのって、ほーわほわ｜リアクション

寝子島の風にのって、ほーわほわ

　燦燦と太陽の光が降り注ぐバリ島のとあるリゾート。
　今日は思いっきりバカンスを楽しもうと旅人たちは思い思いに羽を伸ばす。

「彰尋くん！　早く行こうよ！」

「そんなに急がなくても大丈夫だよ、あおいさん」

　七夜あおいは、傍らの鴻上彰尋にまばゆい笑顔を見せて誘う。彰尋はそれを愛しく思いながら、穏やかに窘める。あおいはふふ、と笑って腕を広げた。
「だって……海がとっても綺麗で、大きく見えて……。ついはしゃいじゃうの」
「そうだな……。寝子島から見る海もいいけど、ここから見る海もいいな」
　広がる海の青さに目を細め、傍らのあおいに心が擽られ、彰尋はドキドキしているのを穏やかな笑みに隠し、共に海に行く。
　程よい温度の波に足を浸せば、共にくすぐったさから笑いあう。その横顔が、笑い声が、とても可愛くて。
「どうしたの？」
　見とれていた彰尋はあおいの声で我に返り、少し赤くなりつつも「なんでもない」と苦笑した。
（あおいさんに見とれていた、なんて恥ずかしくて言えないな）

「ふぅ、開放感があっていいですねぇ～」

巫部紫苑はビーチチェアーに座り、ドリンクを飲みながら微笑んだ。目の前には青い海。心地よい波の音色に耳をすませばそれに交じって海鳥の声が重なる。
　現地の果物を使ったドリンクを口にすれば、しっかりとした風味と甘さに心もとろけそうな心地になる。
「ドリンクも美味しいですし、最高ですっ」
　紫苑は、ふふ、と口福と日差しを楽しんでいるようだ。

（あの海鳥、ちょっとみちゃいましょうかね？）

　隣のビーチチェアーに寝そべり、稲井いおねが飛んでいる海鳥を見つめる。骨に興味を持ついおねは、眼鏡の蝶番を片手の親指と一指し指で抓み、ろっこん『レントゲン・ラブ』を発動させる。と、意外にも繊細な肋骨や綺麗に並んだ脛骨などを見ることができた。
（あんな風に動くのですね……！　ちょっと感動ですっ）
　しばしドリンクを飲むのも忘れ、鳥の骨に見とれるいおね。
そんな彼女を紫苑はかわいらしいな、と思いつつ……彼女が飲んでいるドリンクに興味があるようだ。
「そっちのドリンクはどんな味ですか？　よかったらちょっと飲ませて下さいな」
「いいですよ♪　このドリンク、案外さっぱりして美味しいんですよ！」
　いおねがグラスを渡せば、紫苑は「こっちも美味しいですよぉ」と自分が持っていたグラスを渡すのだった。

「このように……砂を湿らせる程度に濡らして作ると……丈夫にできます」

（このような笑顔は、初めてみるような、気がします……）

　砂に水をかけつつ山を作る五十嵐尚輝。その顔が普段よりちょっと幼く見え、御巫時子はちょっとだけ目元を優しく細める。
「楽しそうですね……」
　時子がそっと微笑みながら言えば、尚輝は僅かに照れたように俯き
「幼い頃、両親と海にいった時の事を、思い出しまして」
　と懐かしそうに答える。
（どんな子供時代だったのか、聞いてみたくなっちゃいます……）
　時子が胸をキュン、とさせている間も尚輝は楽し気に砂の山を作る。それに釣られ時子も一緒に作り始めると、暫し何気ない会話を挟みつつ童心に帰って砂の山を作るのだった。
　ただ不意に、尚輝が
「髪に飾ったフランジパニ……似合いますよ」
　とぼそり、言えば時子の頬が真っ赤になってしまった。

　潮騒と陽光に戯れるようなバカンスの一時。旅人たちはこの穏やかの一日を忘れないだろう。