寝子島の風にのって、ほーわほわ｜リアクション

寝子島の風にのって、ほーわほわ

　ギザの砂漠に大勢の人が足を運ぶ。目当ては三角形の巨大な建造物、三大ピラミッドである。
　古代エジプトの技術の高さに誰もが声を失う。見惚れた状態で立ち尽くす。
　観光で訪れた六人も例外ではなかった。古代衣装を身に纏った姿で感極まったような表情を浮かべた。

　小柄な曖浜瑠樹は仰け反るような姿となった。
「写真で見るよりも、ずっと大きいんだねぇ」
　日除けで被っていた物が落ちそうになり、慌てて両手で押えた。被り直していると金髪の女性や青い目の男性が口々に囁く。共通する単語に瑠樹は不思議そうな顔で自身を指差した。
「オレがファラオ？　似てるかなぁ」
　被り物は最古の王冠、ネメスを模していた。小学四年生の少年の姿もあって人々の関心を集める。

　瑠樹はほんのりと頬を染めて微笑んだ。

　瑠樹を横目で見ていたアイオ・キャンドライトは着飾った姿で胸を張る。
「アイオも負けていませんわ。黄金の髪飾りや腕輪はステージでも映えるのですわ」
　頭部から突き出た猫耳がピクピクと動く。目にした子供は嬉々として喜んだ。
「アイドルは子供にも大人気なのですわ」
　青い瞳は輝き、高笑いが起きそうな表情で堂々と歩き回る。声を掛けられると喜んで写真の被写体となった。

「アイオはどこにいてもファンサービスに努めるのですわ」
　古代のエジプト女性が着ていた白いシースーに身を包み、胸に軽く指先を当ててポーズを決めた。

　桜井ラッセルと天馬ひびきはピラミッドを眺めながら歩いた。

「それにしても暑いな」
「びっくりするくらい。日本では秋なのに」
「ガイドの話だと十月でも日中は三十度になるそうだ」
　ラッセルは金色の前髪を指先で散らし、飽きれたような顔で青い目を空に向けた。
　ひびきは持参した縫いぐるみのはやぶさを両手で掲げる。

「こんな日は空を駆け回りたいよね」
「カナリアになって大空を飛び回りたい気分だ」
「夜は冷えるから夕方になったら帰らないとね」
　言いながらひびきは、はやぶさの胴体に包帯を巻き始めた。気付いたラッセルは声を落とす。
「怪我をしたってことか？」
「違うよ。エジプトって言えばミイラだよね」
「怪我より酷いな」
　ラッセルは朗らかに笑って返した。

　個々が楽しんでいる最中、黒兎都は赤い瞳を自身に向ける。身に付けた装飾や白い亜麻布の一部を指で摘まんでみた。

「黒いパーカーと違い過ぎて、なんか不安だの」
　すると左腕を指で軽く突かれた。都の横には小山内海がいた。同じような古代衣装に身を包んでいる。
　海は青い瞳に力を込める。その状態で顔を左右に振ると筆談用のスケッチブックに急いで書き込んだ。
　スケッチブックの内容が読み取れるように両手で押し出す。

『みやこちゃんにあってて、とてもかわいい』
　目にした都は、ほう、と口にした。
「ぬこよりも可愛いと？」
『ぬこ、よりもかわいい』
「うちは可愛いのか。そうか、そうなのか。ぬこのアイドルになって日本でぬこ塗れになる日も近いのう」
　うっとりした都の声に海は微妙な笑顔を返した。

　太陽が大きく傾く。三基のピラミッドは黄金の光を纏う。同時に気温が下がってきた。空にはハロウィンの季節に相応しい蝙蝠が飛び交う。
　誰しも帰りの時間が頭を過る。都は思い切って言った。
「記念写真を撮ろう」
　その声は快く受け入れられた。黄金に輝く三大ピラミッドを背景に六人は仲良く収まった。
　デジタルカメラの画面を確認すると真っ先にラッセルが声を上げた。
「俺のタイミングが悪すぎだ。髪の装飾を弄ってるよな。だから頼む、もう一回！」
「うちのカメラ目線も気になるのう」
　都の側にいた海はスケッチブックを一同に見せる。
『みんなのふくがよくて、うつすしゅんかんがわからなかった』
「オレはファラオらしさがあって、これでいいかなぁ」
　のんびりした声で瑠樹は目尻を下げた。
　アイオは誇らしげな顔で画面を眺める。
「問題ないですわ。アイオの魅力が十分に詰まっていますわ」
　最後にひびきが画面を見つめた。
「みんなの個性がちゃんと出ていて、良い感じに写っているよね。見ているだけで楽しさが伝わってくるよ」
　満面の笑みに押し切られた。
　最後は雄大なピラミッド群の前で全員が黄金色の笑顔となった。

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