寝子島の風にのって、ほーわほわ｜リアクション

寝子島の風にのって、ほーわほわ

　そこは氷点下の世界。
　大地が銀色に染まっていた。凍えるような空気と雪と氷、単純な純白と表現するには、空中を舞う雪の結晶がきらきらと光を瞬かせては散っていく――北極、昭和基地。

「まぁ、吐く息が真っ白ですわ……！」
　身を切るような寒さに防寒着で身を守りながら、天満七星が手袋に向けて吐息を零すと、寝子島の冬より更に真っ白になった空気がふわりと広がり消えていった。海岸近くにある昭和基地はまだ暖かいが、それでも息が凍り付くような寒さであることを再確認する。
　日常見ない程の大きな雪の結晶が、そっと着込んでいるジャケットの袖に妖精のように乗ると、七星はその可愛らしさに思わずそっと微笑んだ。
　風に乗る花びらのように、降り寄り添った結晶がどこから来たのかと何となく目で追い掛けた先――その目には、七星の存在を具現したような光り輝く星々と、オーロラが映し出された。

「へぇ……これは凄いね」
　側にいたサキリ・デイジーカッターも、七星の様子にふと天上を見上げてみれば、視界に飛び込んで来た壮大な光景に目が釘付けになった。
　夜空に広がっていたのは、雄大さすら感じさせる程の存在感を持ったオーロラだった。それは、さながら夜という窓に掛かっている光で出来たカーテンのように、自由に広がり大きく揺らめいている。オーロラは、緑から青と白、時にはその先端をうっすらと赤に染めて、夜の空にゆっくりとたなびいていく――
　それらを、しばらく無言でじっと見つめ。サキリは声にならない感銘を寄せて、その唇に「綺麗だ」と純粋な言葉を形取らせた。
　今、濃紺の空に浮かぶオーロラは、こちらを魅了するかのように、決して見飽きることのない色姿を見せていた。

「わぁっ、可愛い！」
　しばらく上空のオーロラを眺めていた七夜あおいと八神修は、ふいに自分達に向けられた視線に気付き、視線を雪原の方へと向けた。すると、雪の地平線を見るよりも早く、目の前には四、五羽のペンギンたちが集まって来ており、ぺちぺちと音がしそうな足取りで周囲を取り囲むように歩き回っているところだった。
「ねぇ、抱っこさせてもらってもいいかな？」
　人なつっこいペンギンたちに瞳を輝かせたあおいが、大きな親ペンギンに話し掛ける。そして、近くにいてキョロキョロとこちらを見つめてくるペンギンの子供をひょいと抱き上げた。
　人に慣れているようで、抱き上げられても不思議そうに首を傾げてこちらを見るペンギンの姿に、あおいから幸せそうなオーラと同時に笑顔があふれて来る。
「コウテイペンギンの赤ちゃんか」
　まだ柔らかな羽毛のある、もふもふの赤ちゃんペンギンと触れ合えるのも珍しい機会だ。あおいの笑顔を見ていると、こちらまで笑顔になれる――そう思いながら、修は抱えられたペンギンの小さな翼とも言うべき手を、握手するようにちょいとつまんで持ち上げた。
「ね！　ふかふかしてる。可愛いね、修君」
「ああ」
　改めて、これが成長すると、コウテイペンギンとして大きさなど諸々に貫禄のある存在になるのだと考えると、少しの感慨深さすら感じられる。
　そして、同時にこの可愛さはまさに期間限定。修はそんなペンギンと、あおいの変わらない笑顔を受けて満足と共に頷いた。

「氷原だけでなく、やはり雪も凄く積もっていますね」
　建物以外、見渡す限り白銀の大地において。綾辻綾花が、まだ降ったばかりなのであろう地に一歩足を踏み込むと、キュッと動物の鳴き声のような可愛らしい音がした。
「……雪だるまとか、どうでしょう」
　心思うままに、綾花は側の雪を手袋に包まれた手で掬い上げ、それを固めて丸めていく。今度は両手に乗せられるほどの大きな球と、小さめの球を用意して、そっと重ねて綺麗に形を整える。
　最後に、ごく小さく作ったパーツを、顔として飾り付けるように付けていけば、完成度の高い雪だるまの出来上がり。
「うん、可愛い――」
「おや、雪だるまかな？」
「――！　珪先生！」
　驚きと共に気が付けば、綾花の隣には力作の雪だるまをじっと見つめている早川珪の姿があった。
　珪は雪だるまを見つめて目を細めた。
「うん、良く出来ている。綾辻さんは手も器用だね」
「い、いえ！　そんなことは……！」
　思わず否定しつつも、綾花は改めて自分の手の中の雪だるまに目を留める。何となくで作ったものの、我ながら力作とも言えるものでもある。
「持って帰って飾れたらいいんだけどね」
　溶けてしまう為、持っては帰れないが、褒めてもらえただけでも十分嬉しい――珪の言葉に、綾花も幸せに心をいっぱいにしながら微笑んだ。

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