●何を手伝おうか

　だいぶ人手が集まったところで、魚戸夫妻がうみねこ前に来た。
「これだけ来るたぁありがてぇ。坊主、お嬢ちゃん、集めてくれてありがとよ」
「お嬢ちゃんなんて言わないでくれる？　名前は『嬢』だけどさ」
　名前にコンプレックスがあるのか、嬢は「お嬢ちゃん」と呼ばれ少し不機嫌に。
「自己紹介が遅れました。僕は鳴鏡院　総悟です。頑張りますのでよろしくお願いします」
　名乗った後、ハルコがまだ落ち込んでいることに気づいた総悟は、そっとしておいたほうが良いと声をかけなかった。

　その静けさを打ち破るかのように、風雲児 轟が勢い良く駆けつけてきた。
「おやっさんの店が助けを求めてるって聞いたから飛んできたぜ！　おやっさん達みてぇな良い人を騙した詐欺野郎は許せねぇが、店を立て直すことが先決だ！」
　うみねこ常連として、お世話になった魚戸夫妻に恩返しをしたいというのが手伝いの理由だ。
（ミス研のちくわホームズとしては詐欺の犯人も気になるが、それは大人に任せよう。今の僕はちくわくんだ）
　旧市街ではそれなりに認知度がある（本人談）魚屋『魚新』のＰＲ用着ぐるみ『ちくわくん』の着ぐるみ姿で来た新井 すばる。
　うみねこと書かれたタスキをかけているので、宣伝目的で手伝いに来たのは一目瞭然。「暑くない？」と訊ねたいが、すばるのろっこんを使えば無問題。
「うみねこさんでそのような事があったんですか……」
　旧市街地のお店のことはある程度知っているが、そのような事態になっていたことは初耳だった御鏡 聖。
「俺もそんなことになっていたとは知らなかった……」
　獲れたての魚介を使った定食は安くて美味しい。
　たくさんの人が一箇所に集まり、賑やかなうみねこの雰囲気が好きな御剣 刀は、魚戸夫妻の元気の無い姿を見るのが嫌だと手伝うことに。
「ケンゾウさん、ハルコさん、俺は頑張れるだけ頑張る」
「私も頑張ります。申し遅れました。私、寝子島神社で修行中の巫女の御鏡 聖です。お力になれるような事があれば何でも仰ってくださいね」
　頼もしい若者たちが来てくれたことに大喜びなケンゾウだったが、ハルコに「母ちゃんも何か言いな」と促す。
「皆、ありがとうね……。あんなことにならなかったら、あんた達に苦労かけさせることなかったのに……」
　堪えきれず泣き出したハルコに、総悟の呼び掛けに応じて協力しにやって来た七海 真帆がパーカーのポケットからハンカチを取り出し手渡す。
「泣かないでください。同じ寝子島で商売をしている者として、私もできる限りのお手伝いをします」
　親が寝子ヶ島海岸沿いにあるサーフショップを営んでいることもあり、魚戸夫妻を仲間だと思っている真帆はハルコを元気付けたいと強く願う。

　手伝いの寝子高生が集まっているので、旧市街を散歩していた恵御納 夏朝はうみねこ前にいる皆を見てきょとんとしている。
「ねこのお店発見……と思ったら、うみねこさんだった。皆、何してるの？」
「俺の店の改装をここにいる連中に手伝ってもらうんだよ。お嬢ちゃんも手伝ってくれるのかい？」
　ケンゾウにそう言われ、うみねこ改装の手伝い求むという学校での話を思い出した。
「改装かぁ……僕も、何か手伝えないかな？」
「お嬢ちゃんが手伝えることをやりな。何をするかは、ここにいる皆と話し合って決めるんだな」
「うん、そうする」
　そこへ夏朝同様偶然、立ち寄ったクロウディア・W、興味が湧いた畑生 言嗣も手伝うことに。

「中に入るには人数が多すぎるな。悪いが、外で話し合ってくれ。必要なモンは俺が用意する」
　店内に入るにはスペースが無さすぎ、店内にある自宅に入ってもらうにしても魚戸夫妻を含め２６人なので狭すぎる。
「お店のお手伝いってどんなことをしたらいいのだ？　興味があるから教えてほしいのだ」
　質問する李 小麗に、食堂内外の改装をする力仕事、店のお品書きの修繕、新メニュー考案、新装開店の宣伝、開店時の調理補助、接客をして欲しいと説明する。
「ぬぅん……ざっと聞いただけでも、かなりの量のお手伝いなのだ。よし、せっかく新しく開店するんだから新しいメニューを考えてみるのだ」
「私もメニュー開発を手伝おう」
　自分にできるのはその辺だと浮舟 久雨も新メニュー考案に立候補する。
「あたしも！」
「私もメニュー考案をお手伝いします。神社で毎日調理していますから、お手伝いできると思います」
　琴村 嬢と御鏡 聖も新メニュー考案に。

「俺様は店の修繕をするぜ。ＤＩＹスキルを活かすチャンスだし」
　片っ端から直していくぜ！　と気合いを入れる宇佐見 望月。
「もっちゃんセンパ～イ、一緒に力仕事しましょうなのだ～。真央ちゃん、力仕事は得意だから任せるのだ！」
　うみねこを猫々に改装だー、と猫一杯の食堂にすべく大張り切りの後木 真央。
「私も大工仕事をお手伝いします」
　森 蓮も一緒なので真央は大喜び。
「力仕事なら任せろ」
　剣術の修行で身体を鍛えていることもあり、御剣 刀も引き受ける。
「僕も大工仕事を手伝うよ。ケンゾウさん、店を確認したいんだけどいいかな？」
「構わねえよ。行ってきな」
　失礼しますと頭を下げ、現場の様子を窺いに行く逆巻 天野を尊敬の眼差しの真央だったが、天野はそれに気付かず。

「お店の宣伝は僕に任せといて」
　新井 すばるはウィンクするが、ちくわくんの中なので誰にもわからず。
「チラシ作りは私がやろう。絵やデザインに関することは任せてくれ」
　芸術関連は一通りこなせる旅鴉 月詠の協力は心強い。
「絵を描くことはできるから、メニューの書き直しとかチラシ作りは受け持つよ」
　私なんかで良ければ……と立候補する北原 みゆき。
「私、書は少し自信がありますの。素敵なおしながきを作りますわ」
　幼少の頃から手厳しく仕込まれたこともあり、そこそこ自信がある天満 七星はお品書き修繕を担当。
『わたしもおしながきのかきなおしをしたい。びょうきでこえがでないから、ひつだんになる。ごめん』
　スケッチブックに書いた文章を魚戸夫妻に見せ、小山内 海は筆談で事情も追記。
　詐欺に遭って大変だっただろうけど、頑張ってできることをしようとする意欲は文章でも十分伝わっている。
　気にするなと海の頭を撫でるケンゾウの大きな手から、不器用ながらも優しさが感じられた。
「……私は……開店時の手伝いをします……」
「ハルコさんの補佐として、接客を担当します」
「俺も。店ってのはなんでも新しく開店した時は客入りがすげぇって言うから、人は多いほうがいいよな！」
　哀坂 零葉、綾辻 綾花、風雲児 轟は開店時の手伝いに立候補。

　分担が決まったので、それぞれの仕事をこなすことに。