●うみねこ新装開店

　皆の頑張り、宣伝効果もあり、無事に新装開店当日を迎えることができた。
　開店前、ケンゾウが八神 修が古くなった材木を削って綺麗にし、初島 優が猫の形に仕上げ、天満 七星が『大衆食堂うみねこ』と筆で書き直した新しい看板を設置。
「良し、これで開店準備は完了だ。皆、手伝いを頼んだぜ」

「恥ずかしいですけど……この衣装を着てやれば効果、ありますよね……？」
　手製のメイドウェイトレス服に着替えた哀坂 零葉は、店内からその様子を見て緊張している。
「哀坂さん、緊張しないで。落ち着いてやれば大丈夫だよ」
　励ます総悟だったが、彼自身も緊張しているのか、掌に人の字を書いては飲み込む。
「開店時間だ、客を入れるぜ！」
　風雲児 轟は開き戸を開け、威勢良く客を出迎える。
「へい、いらっしゃい！」
「俺、この店に来るの初めてなんだ。ここのお薦めは何だい？」
「オススメっすか？　おやっさんが作るこの店の料理全部っす！　俺、この店の常連で大抵の料理を食ったんで味は保証しますぜ！」
　常連ならではの轟らしいお薦めだった。
「もしくは新装開店祝いで増えた新メニュー！　こっちもどれもオススメのもんばかりっす！　豚の生姜焼き温泉卵乗せ、海の幸かき揚げ丼、魚介ばくだん丼といろいろあるっす！」
　ハルコに教わった接客のコツを思い出しながら、テキパキと客に対応し、できあがったメニューを運んでいく。
（ハルコばあちゃんに教わったコツのおかげで、スムーズに接客できたぜ）
　付き焼き刃であるが、ハルコ先生の指導は大いに役立っている。

　綾辻 綾花は、忙しい時も笑顔を絶やさず開いた席をすぐ片付け、それが終わると次の客に座ってもらえるように。
「お待ちのお客様、こちらへどうぞ」
　外で待っている客は、綾花が置いた椅子に腰かけて待っているので長時間立って待たずに済んでいる。
「次のお客様、こちらへ……」
　ろっこんが発動したら厨房や配膳をしている皆の邪魔になるだけだと、北原 みゆきは外で待っている客の対応とチラシ配りを。
「わあ、海みたーい！　お魚さんがいるよ！」
　店に入るなり、家族連れの子供が壁に描かれた魚や貝の絵を見てはしゃぐ。
（総悟くん、頑張っているでしょうか？）
　チラリと様子を窺うと、両手に持った料理を運ぶ身のこなしは、剣術の足さばきの如く軽やか……に見えるが、実際はふらついている。
「っとと……。お、お待たせしましたっ！」
　どうにかテーブルに注文された料理を運び終えることができた総悟を見て、私も頑張りましょうと張り切る綾花だった。
「お待ちどうさまなのだ！」
　李 小麗は身軽さを活かし、人混みをスイスイ避けて料理を運んでいく。
「きゃっ……！？　さ、触るのはいけません……！」
　客の中にはこのような不埒なことをする者もいたが、大切なお客様なので赤面しながらも堪える零葉だった。
　ねこったーで『うみねこなう。美味しい食事を運んでくれる可愛いメイドさんがいるから来るべし』と拡散されていたのを知ったら、彼女はどのような反応を見せるだろうか。
　皿洗いをする恵御納 夏朝、逆巻 天野、ケンゾウの調理を手伝う浮舟 久雨、琴村 嬢は厨房内でてんてこ舞い。
「海の幸かき揚げ丼、できあがったぜ！」
「魚介ばくだん丼もできたよー！」
「海鮮生春巻きできあがったよ。運んでくれ給え」
　畑生 言嗣は、作り終えた海鮮生春巻きを皿に盛りつけるとハルコに手渡す。

　料理ができあがるとテーブルに運び、客が帰った後は空の皿を運ぶ作業でハルコと接客班は大忙し。
「ウチでねーちゃんの手伝いするより１００倍マシだと思ってたけど、変わりねえなあ」
　姉が店主のお好み焼き屋の手伝いをしているので皿洗いは慣れている宇佐見 望月だったが、大量の食器を洗うのは大変である。

　小山内 海と御剣 刀、クロウディア・W、修はうみねこの客として店に訪れた。
　他のバイトと同時進行だったこともあり、刀は仕上がり具合いを見ることができなかったので、海の誘いは嬉しかった。
　声が出ないので、接客も料理もできない海は手伝いはできないが、客として来ることはできるとやって来たのだった。
　改装を手伝った仲間なので、相席することに。
「動いたら腹が減るからな。腹ごしらえするなら、やっぱここだよな」
『かたなくん、このさかな、わたしがかいたんだよ』
「上手だな。お腹すいただろう？　何か食べよう」
　注文を聞きに来た轟が、おふたりさんおあついねえと冷やかした。
「話し込んでいるヒマがあったら手を動かしな！」
「わかったよ、ハルコばあちゃん！」
　運ばれてきた料理は、ケンゾウ自慢のものとありどれも美味しかった。
（値段が安い、美味い……と。これらを新聞に書いておこう）
　評価しながら豚の生姜焼き温泉卵乗せを食べる修は、頭の中で号外の見出しやレイアウトを考える。

　大忙しの新装開店初日だったが、寝子高生の協力もあり閉店まで満員御礼状態だった。
　都合等で開店の手伝いに来られなかった協力者達は、閉店時間に集まり魚戸夫妻と手伝っていた仲間を労った。
「ケンゾウさん、ハルコさん、新装開店おめでとうございます。今日１日、お疲れ様でした」
　協力者を代表して、邪衣 士が夫妻に花束を手渡した。
「皆で記念撮影をしよう。その前に、ケンゾウさんとハルコさんが先だね」
　旅鴉 月詠は、店の前に夫妻を立たせて記念撮影を。その後は、班ごとに分かれての撮影。
「班ごとに分けた理由かい？　こうすれば、誰が何を手伝ったかわかるだろう」
　最後は、セルフタイマーで全員揃っての記念撮影。皆、とても良い笑顔で写っている。　

　新装開店されたうみねこは、新規客や常連で改装前より繁盛した。
　店内には、月詠寄贈の店内と夫妻の絵、改装に協力してくれた寝子高生の写真が飾られている。
　寝子高新聞部が発行した号外の効果もあり、部活帰りの運動部員が腹ごしらえに来店したり、若い客や家族連れが増えたりとこれまでにない客層が。

　改装から数か月経ったある夕食時。
　魚戸夫妻は店内のテレビで、俺俺詐欺を働いていた詐欺師が寝子島警察署に逮捕されたことを知った。
　逮捕され、有罪となった詐欺師は騙し取った金をわずかだが手元に残していたので、魚戸夫妻には少ないながらも被害額が返済された。
「手続き、しておいてよかったね、あんた。あの子に感謝しないと」
　返金手続きの申請を勧めてくれた七海 真帆に、心から感謝する魚戸夫妻だった。

　新装開店が滞りなく終わったこと、詐欺師逮捕に安心した夫妻は、閉店後のうみねこ店内で祝杯を。
　この話題を誰よりも喜んだのは、ハルコの心を開き、立ち直らせた真帆だった。
　
　立ち直った魚戸夫妻が切り盛りする大衆食堂うみねこが、寝子島の名所になる日は近いかもしれない。