【星幽塔】第一階層　ウィッチ・ゴーズ・サジタリオ｜リアクション

【星幽塔】第一階層　ウィッチ・ゴーズ・サジタリオ

　更衣室から出てきたラピスは、小動物のように身体を振るわせて赤面していた。
「は、辱められた……！」
　ラピスのコスプレは、ぴったりレオタードに電子基盤やらコードやらが接続された電脳未来っぽいスーツだった。
　アンドロイドっぽさが、ラピスの人形のような愛らしさと相まって滅茶苦茶似合っていた。
　でも、それでも古びた王冠は戴いたままだ。
　あまりに似合いっぷりに響がはしゃぐ。
「ラピスさん、サイバーパンクが好きって聞いてたから、こういうの似合うと思ってたんだよ！　思った通り！」
「う、うちが好きなのは！　蒸気と！　歯車と！　錬金術のスチームパンクなの！！」
　思わず素の口調に戻ってしまうラピスだった。
「それがラピスの本当の口調か？」
　からかう鎌八が、ＢＬバーガーをラピスの目の前にサーブ。
「だが、ちっこいポニテもいいな。大は小を兼ねない。小には小にしかない輝きがある。ふぅ、興奮してきたな」
「こ、この店には変態しかおらぬのか……！？」
　涙目で更衣室へラピスがダッシュ！
　すぐに軍服姿に着替え終わると、ガチムチ系ＢＬ本を奪い取り、カウンターに代金を支払った。
「我はもうゆくぞ！！　まもなく式典が始まるのでな！？」
　じゃあの、とＢＬバーガーを掴んで店の出口へどかどかと音を立てて立ち去ってゆくラピス。
　店の出口のすぐそばで「なにこれ美味しいーっ♪」と少女のような嬌声が上がった。
「あちゃー、サイバーパンクじゃなくてスチパンだったんだねぇ、失敗失敗☆」
　だが響、ガチムチ系ＢＬのラインナップは一定量確保しようと決意したのだった。
「あ、ブリュンヒルデの事とか、5000年前の世界の事とか、聞きそびれちゃった！」
　響がいっけなーいと頭をこつんと叩く仕草をすると、鎌八は苦笑い。
「まぁ、仕方がないさ、にゃんこたん。そういえば、お祭りの裏で蔵書整理の手伝いに駆り出された奴らがいるって聞いている。あとでそいつらから情報を仕入れてくるとしようか」
　ところで、と鎌八はスタッフのひとりに声を掛ける。
「君はブリュンヒルデの事、何か知らないかい？　噂でもなんでもいいから知っていたら教えてほしい」
「……自分は、ハマドから『この作戦が成功した暁には、ブリュンヒルデの副官として取り立ててもらうことになっている。お前らも将来安泰だ』と聞いてました。ハマドはどこかでブリュンヒルデと接触をしていたのは事実ですが、奴はアルターエゴすら出てこれなかったと聞いています。一体、どうやってハマドへ指示を出していたのかまでは、自分や仲間もわからないですね……」
「そうか、ありがとう」
　今の情報は、蔵書整理組と情報交換する際に伝えるべきだろう、と心の中で鎌八は頷いた。
「この平和がいつまでも続くといいんだが。さて、ラピスは行ってしまったが君たちの歓迎会を行おう」
　いつの間にか、店にはオフだった元精鋭兵のスタッフが駆け付けてきていた。
　お店は『Close』の表記。つまり貸し切りだ。
　鎌八と響は御馳走を並べ、スタッフたちに極上のワインを振る舞う。
「今日、２人で店を空けたのにちゃんと店がまわっていた事、ラピスが来た時に無理難題を言われても嫌な顔ひとつせず対応したこと、また、他の客や家畜の世話も忘れずにちゃんと出来ている事、本当に良くやってくれてると思う。これからもよろしく。乾杯！」
「「乾杯！！」」
　こうして、ブラックリキッド亭もささやかではあるがお祭りがやってきたのだった。