あの日以来、北の森の奥が鈍色に輝き続けている。
銀色の光は次第に刃物のような剣呑な輝きへ変化していった。
そして、その光を纏うはミャトゥ遺跡“だった建物”である。
――月影塔(ミズガルズタワー)。
かつて、星幽塔(アストラルタワー)と対を成していた双子塔の片割れ。
それは第一階層の天を貫き、悠然とそびえ立っている。
◆
第一階層を統治するサジタリオ城領主の少女、
フランチェスカ・D・Sは城下町に『非常事態宣言』を発令。
まずは城の軍備の強化を急いだ。
前回の兵士の練度の低さはフランチェスカも目を覆う結果であったからだ。
調べたところ、今まで戦闘に従事しなかった多くの兵士たちは、星の力がだいぶ衰えていることが判明した。
現在、まともに星の力が使える戦力は、先日の戦乱で
ステラ・ラ・トルレを秘密裏に誘拐・幽閉して第一階層に分割存在(アルターエゴ)と呼ばれるステラオルタを召喚した大臣が擁する、精鋭部隊のみであった。
だが大臣は城の精鋭部隊を前もって『辺境の村を襲う魔物の掃討作戦』に派遣させていた。
そこへ先日の敵襲、何か裏があると勘繰る家臣たちが調べたところ、一連の出来事は完全に大臣の手引きだと判明した。
フランチェスカはこの事実を大臣に一任していたため把握しておらず、彼女は自身の管理能力の欠如を痛感せざるを得なかった。
また、義勇兵への指揮委託の件も伝達不足であるとフランチェスカは公式文章で謝罪をした。
ちなみに、あの戦乱に紛れて大臣は城から逃走し、行方は未だ掴めていない。
精鋭部隊も消息を絶ったまま城へ帰還していないことも気掛かりだ。
恐らく、最初から討伐の派遣は虚偽の任務であり、大臣の駒となって城から離反したものと推測される。
また、兵士間の緘口令(かんこうれい)を強化。
市民への不安を煽らないよう、厳重な情報の扱いの再教育を徹底した。
また、暴走するような義勇兵に対しても「待った」を掛けられるような気配りも出来るようになった。
◆
城の軍備情報も義勇兵たちに開示された。
武器や防具は一通り揃っている。
食料・医療品などの兵站も充実。
城の補修に使われる資材も豊富な在庫を抱えている。
上手く陣頭指揮を執ったり、ろっこんや星の力を使えば、戦闘中でも城壁の強度を上げることが出来るだろう。
それと星の力で作動する古びた大砲もあるが、強大な星の力が必要なオーバースペックであるため、現在も城の精鋭部隊でさえも扱う事が出来ない上に、どの星の力で作動するかも不明。
古文書には『怒り狂う神威の矢(ルビ:インドラ)』とだけ記されている
一体どうやって起動させるか分からぬ代物だが、義勇兵の中には扱える者もいるだろう。
連絡手段は『狼煙』『花火』『戦太鼓』の3つ。
とはいえ、現状はあまり役立っていないのだが……。
◆
先日の事件について、他のアステリズムへの相談を具申する意見も見受けられた。
早速、フランチェスカは
工房兼会議場『クレイドル』にて、各層のアステリズムへ議題として提示。
各アステリズムは協力を惜しまないと明言するも、その具体案は提示されなかった。
『残念ですが、私を含め他のアステリズムは此処と自分の階層と十三階層以外には移動できませんから、サジタリオ城へ援軍に駆け付けられません。申し訳ありません……』
フランチェスカは悟った。
「やはり私が何とかするほかないのでしょうか……?」
だが、敵は強大で未知数の存在だ。
今、大群で押し寄せられたら、サジタリオ城はひとたまりもないだろう。
「ならば、私のやることは決まっています……!」
彼女は先日の戦乱に参加した、ある義勇兵を招聘(しょうへい)することにした。
◆
つい最近までアステリズムの存在すら知らなかったお姫様が、父の死を受け領主となり、もれいびたちと共に城を解放したのちにアステリズムであることを知った。
伝説としての月影塔の諸々の話は、父の代から領主に仕える使用人のジルベルトから「時が満ち足りたので」と教えられたものだった。
領主になったことは市民も歓迎してくれたし、星幽塔の復活も、もれいび・ほしびとと共に尽力した。
だが、彼女自身の力では未だ、何も成し遂げていない。
大事件の際には、常にもれいび・ほしびとの存在があった。
それが悪いことでは決してないのだが、単独でフランチェスカは偉業を遂げていない事も事実であった。
更に、先日の戦乱で城下町の治安悪化や経済混乱は未だに収まっていない。
政務関係は家臣に任せていたフランチェスカは、この未曽有の混乱に対して家臣と市民から処遇を求められ、ただただ狼狽するばかり。
よく考えてみれば、自分の部屋を満足に片付けられないのに、国の問題を片付けることが最初から出来たのかと問われれば、至極真っ当な有識者の考えならば「NO」と答えるだろう。
◆
こういった市民の不満は領主のフランチェスカに向けられた。
市民はサジタリオ城内の庭園の一画や教会や近隣の貴族の屋敷周辺他に避難をしているのだが、中には不穏分子による武力蜂起の機運も高まっている。
領主たるフランチェスカも、北の遺跡まで遠くへ自ら赴くことが躊躇われるのが現状だ。
ゆえに残念ながら、市街地の暴動鎮圧のために兵をある程度こちらへ派遣しなくてはならないし、フランチェスカも精々、北門に急設した砦より遠出は難しい。
今回も戦力不足の解消は義勇兵頼りになりそうである。
先日募った具申書の中には、兵の指揮権についての言及も多くみられたため、今回は予め指揮権の有無を確認するとの事だ。
一騎無双に奔走するか、兵の統率力で立ち向かうか、義勇兵たちの手腕が問われる。
◆
そして、現在に至る。
招集された
白 真白はフランチェスカの親書を受け取った。
そして、同時に『人形の魔女ラピス』の残る遺骸(『頭部』『胴体』『右腕』『左脚』『心臓』)も受け取った。
「……なるほど。お城から動けないフランチェスカさんの代わりに、私たち義勇兵がラピスさんのところへ行って遺体を返却する、という事ね」
「はい、お願いします。ただし、可能であれば、ですが……」
フランチェスカの表情が曇る。
「市民は魔女ラピスの討伐を切望しております。つまり、皆さん義勇兵が、魔女ラピスを再び打ち滅ぼし、塔の再封印をする事を市井は望んでいます」
白はそこでフランチェスカが言わんとしていることを理解した。
「このままだと、フランチェスカさんは、街の人の声を裏切ってしまうということ?」
「結果的にそうなるでしょう。それに、義勇兵の皆様の中にも、そういう考えの方が少なからずいらっしゃることも重々承知の上でお願いをしております」
ですが、とフランチェスカは強い意志を言葉に乗せて白へ伝える。
「
魔女の記憶を読み取った白さんの話を聞いて、私は確信しました。魔女ラピスは、伝説の獅子座のアステリズム『姫騎士』ブリュンヒルデに誅殺されたのだと。長い長い時間が、我々と魔女ラピスの間に横たわる誤解を憎悪に変えてしまいました。こんな悲劇は、今すぐ終わりにしなければなりません!」
フランチェスカはすがるように白の両手を握ると、その場に跪いて懇願した。
「たとえ魔女ラピスの力が完全復活したとしても、この遺骸はもはや私が管理すべきものではありません。どうか、全て返却してあげてください。月影塔も完全復活してあげてください。そのための私の親書があるのですから……!」
「お、落ち着いて、フランチェスカさん! やれるだけのことはやってみるよ!!」
白は彼女の不安を取り除くべく、美しい長い金髪をなでなで。
撫でるたびに、その髪から薔薇の香りが漂う。
(うわぁ、めっちゃいい匂いがするよ……!? 私、お姉さんに甘える方が好みだけど、これはこれで役得かも??)
百合の気がある白はこの状況は内心、とても美味しい状況なので1秒でも長く続いてほしいなぁと思いながら金髪少女の領主をしっかりハグ。
柔らかい彼女の身体が、底知れぬ深い恐怖で震えているのがよく分かった。
その最中に、むさくるしい兵士が駆け込んできた。
「で、伝令! 伝令でございます!」
気が付いた白が振り向くと兵士に一喝した。
「ちょっと!? 今いいところだったのに! 要件を5秒で言って早く帰って!!」
「え~~~!?(がびーん!!)」
兵士は百合の花アトモスフィアにめげずに伝令の役目を果たした。
(彼は鋼の意志で5秒ルールを撥ね飛ばしたのだ)
・本格的に北の動きが活発になってきた。開戦の兆しあり。
・それに伴い、森を覆っていた光の結界が消失して誰でも出入りが可能になった。
・逃亡した大臣が北の森内に出現。城の精鋭部隊100人も引き連れているとのこと。
・竜牙兵の大軍、規模はおよそ兵団クラス、その数、およそ5万体。
・新たに魔導系竜牙兵の出現を確認。
・城の戦力はどんなにかき集めても6000人が限界。
・さらにその中から1000人を市街地の鎮圧に割かねばならないため、敵との兵力差は10倍。
戦況は最悪。
援軍の見込みは望めない以上、サジタリオ城側は5000の戦力で5万の竜牙兵を相手取らねばならない。
「それでも、戦わねばなりません……」
白に抱っこされたまま、フランチェスカは呟いた。
未だ身体の震えは止まらない。
絶望からか、涙も止まらない。
「それでも、私は、サジタリオ城の主にして、射手座のアステリズム、フランチェスカ・ダ・サジタリオなのです……!」
白から離れ、立ち上がったフランチェスカの表情には、死の覚悟が窺えたのだった。
★このシナリオはそれぞれ難易度設定が存在します★
(この難易度は、焼きスルメ担当のシナリオのみに適用されます)
各戦場で発生するイベントは、原則PL情報(PCの知り得ない情報)です。
ですが、ろっこん・星の力が月影塔の影響で強まっているため、
『なんとなくそんな気がする』『胸騒ぎがする』レベルで予感できるものとします。
(あまりにも予知めいたアクションはマスタリング対象となります)
それと、金貨5000枚はきちんと支払われました。
響 タルトさんはご自由にお使いください。
概要
星幽塔(アストラルタワー)がそびえ立つ北の森から、竜牙兵の大軍がサジタリオ城に押し寄せてきています。
その数、なんと5万体です。繰り返します。5万体です。
参加者は敵軍から城を防衛しつつ、後述する遺跡突入班がラピスと接触して事を成して城へ帰還するまで耐え抜かねばなりません。
また、城下町では暴動が起きており、練度の上がった兵士たちが鎮圧にあたっています。
武装蜂起集団は数こそ少数(500人)ですが、いつまで持ち堪えられるかは不明です。
今回は大きく4つの編成に分かれます。
それぞれ『難易度』と『達成推奨人数』が異なりますので、よくご確認ください。
アクションへ『兵士たちへの指揮権の有無』を明記していただくようお願いします。
※兵の練度上昇の具申により、兵士は『星の力の行使可能』と『竜牙兵1体の戦力までレベルアップ』の変化が起きました。
※また『兵の士気』に関わるアクションは、上方・下方ともに強力な補正を掛けます。
作戦1:竜牙兵の大軍からサジタリオ城を死守せよ!(難易度:絶望)<達成推奨人数:10人>
くわしくはコチラからどうぞ
作戦2:遺跡突入班の血路を開け!(難易度:地獄)<達成推奨人数7人>
くわしくはコチラからどうぞ
作戦3:遺跡に突入し、ラピスと決着を付けろ!(難易度:???)<達成推奨人数:5人>
くわしくはコチラからどうぞ
作戦4:城下町の暴動を食い止めろ!(難易度:易しい)<達成推奨人数:2人>
くわしくはコチラからどうぞ
星の力
星幽塔にいると、星の力 と呼ばれる光が宿ります。
★ 基本的な説明は、こちらの 星の力とは をご確認ください。
星の力やその形状は、変化したりしなかったりいろいろなケースがあるようですが、
このシナリオの中では変化しませんので、このシナリオではひとつだけ選んでください。
ひとともれいびにはひとつだけですが、
ほしびとには、第二の星の力(虹)もあります。
★ 虹についての説明は、こちらの 第二の星の力 をご確認ください。
アクションでは、どの星の光をまとい、その光がどのような形になったかを
キャラクターの行動欄の冒頭に【○○の光/宿っている場所や武器の形状】のように書いてください。
衣装などにこだわりがあれば、それもあわせてご記入ください。
衣装とアイテムの持ち込みについて
塔に召喚されると、衣装もファンタジー風に変わります(まれに変わってないこともあります)
もちものは、そのPCが持っていて自然なものであれば、ある程度持ちこめます。
※【星幽塔】シナリオのアクション投稿時、作物・装備品アイテムを所持し、
【アイテム名】、【URL】を記載することで、
シナリオの中で作物(及びその加工品、料理など)・装備品を使用することができます。
※URLをお忘れなく!!!
※オーダーメイド装備品について
鍛冶工房のトピックを経る(またはシナリオなどで得る)場合のみ
アクション冒頭で指定した星の力とは別に、装備品固有の《特殊効果》が認められます。
アイテム説明欄に、トピックでの完成時の書き込みURL・シナリオ入手時のURLを記載してください。
例:http://rakkami.com/topic/read/2577/2116
For now we see in a mirror, dimly, but then face to face.
Now I know in part, but then I shall know just as I also am known.
“The First Epistle of Paul the Apostle to the CORINTHIANS”
CHapter 13-12