【大戦の後】
獅子目 悠月は領主の
フランチェスカ・D・Sに招聘され、2人は城の庭園で茶会を楽しんでいた。
「獅子目さんのお陰で、あの時、私はやるべきこととやりたいことが初めて合致しました。とても頼もしかったですよ。ですので是非お礼を言いたくて……」
フランチェスカは、あの戦いでの獅子目の歌う姿を思い返していた。
サジタリオ讃美歌を、軍楽隊のフルオーケストラをバックに力強く雄大に歌い上げる姿を、その瞼の裏に浮かべていたのだ。
獅子目はうっとりとするフランチェスカに対し、首を振ってみせた。
「俺はただ、フラン嬢を守りたかっただけです。それに、途中からは俺の方が助けられた。あの時のフラン嬢は、まさしくこの国を引っ張る領主様だった」
兵の士気が瓦解しそうになった時、それを立て直したのは獅子目の歌であり、フランチェスカの勇気であったことは間違いない。
フランチェスカは、謙遜する獅子目に対して、その旨を強調した。
「あなたが私の頬を平手打ちしてくださらなかったら、今頃、私は棺の中で眠っていたでしょう。未熟だった私を導いてくださったこと、心から感謝しています」
頭を下げるフランチェスカに、獅子目は思わず慌てる。
「やめてください、フラン嬢。俺は自分にできることをしたまでだ」
「自分にできること、ですか」
よっしゃ言質を取ったぞ、と言わんばかりの笑顔を浮かべるフランチェスカ。
「では、私も自分にできることをしましょう。獅子目さん、あの時、私は臨時で近衛騎士に任命しましたが、これからも私の騎士として有事の際には尽力してくださいませんか?」
「……それはどういうことだ?」
獅子目が問えば、フランチェスカはメイドを呼び付け、ビロードの小箱を持ってこさせる。
その箱を開けると、中には絢爛豪華な勲章が入っていた。
「先日の戦いを『月影塔(ミズガルズタワー)戦役』と呼称し、その戦いに従事した者たちへの褒賞として勲章を授与することになりました。勿論、獅子目さん、あなたにも送られます。そして勲章授与と共に騎士号の叙任も執り行う事も決めました」
「な、待て、聞いてないぞ!?」
「勿論です。今、初めて獅子目さんに話したのですから」
獅子目は深く息と吐いて頭を抱えた。
「……つまりフラン嬢は、
明後日、急遽開催される戦勝記念祭での目玉として勲章授与と騎士叙任の式典を開く。そこに今回の英雄である俺達が登場して祭りを盛り上げたい。そういう魂胆か」
「呑み込みが早くて助かります、獅子目さん!」
フランチェスカの屈託のない笑顔を向けられた獅子目は、やれやれと肩を竦めた。
「ああ、でも、勲章と騎士叙任は辞退することもできます。勿体ない話ですが、そう言った名誉や肩書に縛られたくない方もいらっしゃるでしょうから……」
でも、とフランチェスカは言葉を継いだ。
「これは、私からの最大限の御礼の形なのです。騎士号はこのサジタリオ領内でとても栄誉ある称号です。時と場合によっては、男爵と同等の権威を有するのですよ。ですので、獅子目さん、当日は式典のご参加を是非、御検討ください」
「……即答はしかねるが、頭の片隅には入れておこう」
【お祭り当日】
そして、なんやかんやで戦勝記念祭の当日。
サジタリオ城下町は商人や道化師たち、観光客、喜び合う市民でごった返していた。
その中を、歯車やボルトが散りばめられたスチームパンクなワンピース軍服で闊歩する幼女がいた。
「ククククク! 5000年ぶりのサジタリオ城下町、随分と様変わりしておるではないか!」
ノスタルジーに浸る神代のふたご座のアステリズムにして人形の魔女、ラピス・ドール・マクレガーその御仁であった。
戦勝記念祭の目玉である式典の来賓として、そして星幽塔と月影塔の友好の象徴として、本日はフランチェスカに招かれたのだ。
式典の後は、お互いの今後について会談を行う事になっている。
「ふむ、式典までだいぶ時間があるな。ならば、5000年ぶりに屋台で食事を摂取するというのも興味深い」
するとちょうど、屋台のゴリラ獣人のオヤジが「お嬢ちゃん、空きました空きました! どうぞどうぞ!」と勧めてくる。
これは渡りに船だと、ラピスはその屋台へ吸い込まれてゆく。
ねじり鉢巻きに法被を着込んだオヤジは威勢よく注文を取りに来た。
「いらっしゃい! 何にしましょう?」
ラピスはお品書きに目を通すと、とあるメニューを指差してこう言った。
「これを4つくれ」
「2つで充分ですよ!」
店主がすかさず指を2本立てて首を振る。
だがラピスは空腹だった。
5000年ぶりの屋台での食事を貪りたかった。
だから彼女は諦めなかった。
「いや、4つだ。2個と2個で、4つだ」
「2つで充分ですよっ!! 勘弁してくださいよぉ~!」
「いや、4つで良いのだ。4つの方が遥かにいい……」
「だから2つで充分ですよ!」
互いに一歩も引かない店主とラピス。
だがしかし、式典前に揉め事を起こすのは避けるべきだと彼女は判断。
やむなくラピスが折れることになった。
「……わかった、2つにするゆえ、これをすぐに持ってくるのだ。それと、このうどんとやらも頼むぞ?」
「わかってくださいよぉ~」
ゴリラの店主はようやく安堵の表情を浮かべて厨房へ戻ってゆく。
「あぁ~あ、うち、4つ食べたかったのになぁ……」
不満のあまり、油断して素の口調が出てしまうラピスであった。
【サジタリオ図書館は虫干し中】
外はお祭り騒ぎだが、ここは戦場だった。
つまり、図書館は戦争だった。
司書2人が蔵書を引っ張り出しては別のところへ持って行き、本の中身を調べて分類しているのだ。
すべては月影塔の理解の為に。
「あああああ! 作業終わらねぇぇぇぇぇ! いくらフラン様の命令でも、絶対的な人数が足らねぇ! この城に一体どれくらいの本があると思ってんだ、あの人!! 俺、お祭り行きたかったなあああ!! もういっそ天から洪水が起きてお城が水浸しになればいいのに!」
「おい、不吉な事を言うのはやめろ。フラン様から直々に命を戴けるなんて、私たちの身に余る光栄じゃないか。いいから手を動かせ、手を」
「へいへい! あ~あ、こんな時にフラッと図書館を利用してきた奴に仕事を手伝わせられればなぁ~!」
と、その時、獅子目が図書館に顔を出す。
「作業中にすまない。フラン嬢を探している。ここへは立ち寄らなかったか?」
「「し、獅子目様!?」
司書たちは、いきなり現れた先の大戦の立役者の『花のあるオーラ』にド緊張。
「えと、フラン様は先程、ここへきて私たちに仕事をお与え下さった後、執務室へ向かわれました」
「そうか、ありがとう。ところで……仕事、大変そうだな?」
獅子目は山積みになった蔵書を眺めて腕を組んだ。
「俺がフラン嬢に応援を寄越すよう、掛け合ってみようか? 流石にこの量を2人だけでは処理しきれないだろう?」
司書2人は「よろしくお願いします!!」と頭を下げた。
獅子目は去り際に司書たちに激励の言葉を投げ掛けた。
「不可能だと思って諦めるよりも、出来る事を必死にこなしてみろ。必ずいい方向に向かうから」
概要
今回は大きく分けて3つのサブストーリーが交錯します。
どれか1つを選んでいただき、参加していただくことになっています。
2つ以上のサブストーリーを跨いで参加は出来ないのでご了承下さい。
【行動1:サジタリオ城下町にて、戦勝記念祭に参加せよ!】
城下町は文字通りお祭り騒ぎ!
月影塔からラピスも、フランチェスカと会談をすべくお祭りに参加しています。
ですが、ラピス自身、約5000年ぶりのサジタリオ城下町ですので、すぐに迷子になってしまうでしょう。
このままでは、迷子センターにてFXで有り金全部溶かす人の顔で呆けるラピスさんの姿が目撃されてしまう!
城への案内をするついでに、食事やオススメスポットを紹介してあげましょう。
ご自身のコミュニティでの出店も大歓迎です!
後述するラピスの性格も考慮すると喜ばれるでしょう。
勿論、ラピスそっちのけで祭りを楽しんでもOKです。
また、戦勝記念のパレードも催されます。
もしかしたら、一緒に戦った仲間の姿もパレードの中にあるかも?
【行動2:サジタリオ城にて、英雄として叙勲式に出席せよ!】
『月影塔(ミズガルズタワー)戦役』と名付けられた前回の戦いにおいて、
戦闘に貢献した者共へフランチェスカから勲章を授与されることとなりました。
このサブストーリーでは、サジタリオ城内での叙勲式に参加することが出来ます。
サジタリオ城並びに第一階層を救った英雄たち、それが前回参加者たる貴方たちです。
胸を張って式典に臨みましょう。
対象者は前回『マイ・フェイタル・シャドウ』に参加したPCの皆様です。
それ以外の方がこのサブストーリーを選択された場合は、参列者として描写させていただきますのでご了承下さい。
アクションに特段の希望がなければ、勲章と共にサジタリオ正規騎士としてフランチェスカから直々に叙任されます。
この騎士号は男爵と同列の権威と名誉を与えられることを意味します。
ラピスも式典に来賓として参列しますので、挨拶をしてみても良いでしょう。
式典後はパレードに参加します。
市民の歓声を一身に浴びることが出来ますよ!
【行動3:サジタリオ城に眠る古代の蔵書を読み解け!】
残念ながら諸事情でお祭りに参加できないあなた方は、サジタリオ城内の図書館の蔵書整理を手伝う事になりました。
カビ臭い年季の入った本の中には、月影塔と星幽塔にまつわる神話の書物が眠っているとフランチェスカが言っています。
(彼女も蔵書のすべてに目を通したわけではありませんので定かではないですが……)
今後の展開で重要なヒントが得られるかもしれませんし、得られないかもしれません。
さぁ、推理班、君たちの出番だぞ!
(調べる内容は具体的であればあるほど深く調べることが可能です)
フランチェスカとの会談が終わったラピスが知識欲を満たしに遊びに来ますので、めぼしい書籍が見付かったら質問してみると良いでしょう。
例えば、前回、遂に日の目を拝むことがなかった悲しみを背負った古代兵器『怒り狂う神威の矢(ルビ:インドラ)』の使い方とか……。
でも、与えられた仕事はちゃんとこなさないと怒られますのでご注意を!
ラピスについて
こちらはラピスのプロフィールです。
皆さんは『書物で調べた』『そんな噂を聞いた』『本人から聞いた』などというアクションで、ふわっと以下の内容を把握しているとみなします。
【名前と年齢】
ラピス・ドール・マクレガー(推定5000歳)
【容姿】
10歳にも満たないほどの幼い女の子の姿
童女というよりも幼女と呼ぶに相応しい体型
紫の長い髪に金色の目をたたえた、生きた人形のような端麗な顔立ち
頭には大きな王冠を常に被っている
本人曰く「捨てたくても捨てられない、未練がましい骨董品」だとか
衣装はスチームパンクやサイバーパンクの意匠を凝らした軍服を好む
本気を出すと大人の姿になれるらしいが、特殊な製法で作った青い飴玉が必要とのこと。
【性格】
尊大で傲慢
自信家で好事家
研究熱心で好奇心旺盛
悪意という名の善意の塊
向こう見ずなのに折れると脆い
気まぐれだけどスイッチが入ると一途
そして絵に描いたような中二病
狂気を孕んだ無邪気さと計算高さが同居
孤高でいたいけど独りぼっちは嫌いなかまってちゃん
神代から周りを全力で振り回すトリックスター(ルビ:困ったちゃん)
結論:めっちゃ性格が悪い奴
現代ならば『SNSで他人のコメントの内容の間違いを見付けては、ドヤ顔で徹底的に指摘してマウントを取ってくる痛い奴(でも反撃されると涙目でアカウントを畳んで不貞寝して同情を買おうと必死)』だと思っていただければ充分です。
星の力
星幽塔にいると、星の力 と呼ばれる光が宿ります。
★ 基本的な説明は、こちらの 星の力とは をご確認ください。
星の力やその形状は、変化したりしなかったりいろいろなケースがあるようですが、
このシナリオの中では変化しませんので、このシナリオではひとつだけ選んでください。
ひとともれいびにはひとつだけですが、
ほしびとには、第二の星の力(虹)もあります。
★ 虹についての説明は、こちらの 第二の星の力 をご確認ください。
アクションでは、どの星の光をまとい、その光がどのような形になったかを
キャラクターの行動欄の冒頭に【○○の光/宿っている場所や武器の形状】のように書いてください。
衣装などにこだわりがあれば、それもあわせてご記入ください。
衣装とアイテムの持ち込みについて
塔に召喚されると、衣装もファンタジー風に変わります(まれに変わってないこともあります)
もちものは、そのPCが持っていて自然なものであれば、ある程度持ちこめます。
※【星幽塔】シナリオのアクション投稿時、作物・装備品アイテムを所持し、
【アイテム名】、【URL】を記載することで、
シナリオの中で作物(及びその加工品、料理など)・装備品を使用することができます。
※URLをお忘れなく!!!
※オーダーメイド装備品について
鍛冶工房のトピックを経る(またはシナリオなどで得る)場合のみ
アクション冒頭で指定した星の力とは別に、装備品固有の《特殊効果》が認められます。
アイテム説明欄に、トピックでの完成時の書き込みURL・シナリオ入手時のURLを記載してください。
例:http://rakkami.com/topic/read/2577/2116
マスターから
乾物は言ったはずだ、このシリーズは『3部作』だと!!
ドーモ、有限実行の乾物こと焼きスルメです。
安心してください、今回はサツバツ&スレイなアトモスフィアは皆無!
やったぜ、お祭り騒ぎだイヤッホオオォォォォオオオッ!!
前回・前々回のシリーズシナリオに参加していない方でもゆっくりしていってね!!!
そして、来る【月影塔】シナリオへの前哨戦でもある本シナリオです。
古代兵器『怒り狂う神威の矢(ルビ:インドラ)』さんの謎が遂に解き明かされるのでしょうか?(苦笑)
まぁ、作り手は誰か、もう皆さんは察しが付くと思いますが……。
それでは、お祭りを存分に楽しんでくださいませ!
ご参加、アクションをお待ちしております!!