【星幽塔】第一階層　ウィッチ・ゴーズ・サジタリオ｜リアクション

【星幽塔】第一階層　ウィッチ・ゴーズ・サジタリオ

　いよいよ式典が始まる。
　新田亮は整髪料でオールバックにした髪を気にしつつ、燕尾服の着心地に慣れずにいた。

「うーむ。正直、主役って柄ではないんだがな。だが、これも仕事の一環だ。しっかりやるか」
　自分の姿を鏡で最終確認すると、メイドに帽子を持ってくるように伝える。
「やっぱり恥ずかしい……。深めの帽子で顔を隠したい……」
　だがメイド曰く、領主の前では帽子を脱ぐので意味がないと言われ、やむなく帽子で顔を隠す作戦は諦めざるを得なかった。
「まぁ、確かに、厳粛な儀式の中、偉い人の前で帽子を被るのはちょっと失礼にあたるかもな……」
　亮は自分の両手で顔を叩いて気合を入れると、戦争へ赴くときよりも覚悟を決めて式典会場へ足を踏み入れた。

　一方、テンション青天井ではしゃぐメリィ・ランページとリリエル・エーテライトの親友コンビは、厳かな雰囲気の式典会場にワクワクのドッキドキだ。
「ねぇ、リリエル！　いっぱい人が来てるよ！！　これから何がおこるのかな！？」
「もう、メリィちゃんてば。これから私たちの叙勲式が始まるですよ？」
　苦笑を浮かべるリリエルの説明に、ぽかーんと口を開けて首を傾げてしまう虎の子。
「えっと、じょ、くんし、き？　なにそれ？　おいしい？」
「食べ物じゃないですよ！？　えぇっ！　もしかしてメリィちゃん、今日何をするか分かってなくて来ちゃったんですか！？」
　まさかの事態と親友の天然ボケに眩暈を覚えるリリエル。
「だってリリエルがここにくることを喜んでたから、あたしも一緒にいきたいって思ったんだ！」
　それに対して屈託なくイノセントスマイルを振りまくメリィ。
　なんだこいつ可愛いんだけど。
　仕方がないので、リリエルは再度、今日の趣旨をメリィにゼロから説明をする事に。
「……というわけで、私たちはフランチェスカ様にお呼ばれされたのです！　メリィちゃん、街のために頑張ったのを褒められるのは嬉しいですけど、なんだかドキドキしてきちゃいますね……！」
「うん！　よく分からないけど、エラい人にあたしはこれから褒められるんだね！？　わーい、やったぞー！！」
「私の説明が伝わってません！？」
　ショックを受けたリリエルは、小声で自己メンタル修復のために「頑張リリエル、頑張リリエル……！」と呟き続ける。
「そっかー、あの時はいっぱいどっかんばっきん倒したからねー！　よーし、じょくんしき、がんばるぞぉー！！」
　メリィは無邪気にはしゃぐ隣で、リリエルはお母さんの気持ちで親友を見守っていた。
「ところでメリィちゃん。服装とかこれで大丈夫かな？」
　リリエルは今日のために、よそ行きの上等な衣装をクローゼットから引っ張ってきた。
　厳かな式典に合わせて、ドレスは黒一色。
　ゆったりとしたスカート生地とフリルをふんだんにあしらった少女趣味溢れる代物だが、フォーマルな場面でも自己主張しすぎず可愛さアピールが出来る素晴らしいデザインだ。
「あまりみすぼらしい格好は出来ませんし、かといって着飾り過ぎると笑われそうで……。はわわわ……、き、緊張してきちゃいました……」
　全身がガッチガチに固まるリリエル。
　そんな彼女の両手をメリィはしっかり握ってこう告げた。
「大丈夫！　すごくかわいいよ、リリエル！　あたしも凄いひらひらだよ！　ほら！」
　メリィも普段の格好に真っ赤なビロードのマントを羽織っていた。
「メイドさんがすすめてきたんだ！　ねぇ、にあう？？」
「とっても似合いますよ、メリィちゃん！　王様みたいです！」
「おー、王様かー！　やっぱり虎は百獣の王だもんね！！」
　得意げに胸を張る親友に対して、リリエルは内心「百獣の王ってライオンだったような……？」と静かにツッコミを入れるが決して口は出さないようにした。