【星幽塔】第一階層　ウィッチ・ゴーズ・サジタリオ｜リアクション

【星幽塔】第一階層　ウィッチ・ゴーズ・サジタリオ

「忙しいところ、時間を作ってくれたことに感謝します」
「いいえ、ほかならぬ獅子目さんのお話なら、喜んで」
　フランチェスカは満面の笑みで獅子目を促す。
　その先には、おととい、お茶会で使用したテーブルとイスが並べられていた。
　恐らく、式典の観覧者用に再び外へ持ち出したのだろう。
　獅子目は促されるまま席に座った。
　フランチェスカもそれを見てゆっくりと腰を落ち着ける。
「さて、話したいことがある、と仰ってましたが……？」
　フランチェスカの青い双眸に獅子目の顔が映り込む。
　獅子目は、彼女が如何に自分へ期待を寄せられているかを肌で感じる。
　ゆえに、今から話す事は、彼女にとっては意に反する内容になり得る。
　だが、獅子目はどうしても伝えておきたかった。
「フラン嬢。貴女が良き領主である限り、俺にとっての良き隣人である限り、俺は貴女の味方でありたいと思っている」
「……嬉しいです。ありがとうございます、獅子目さん……」
　ほのかに顔を赤らめるフランチェスカ。
　しかし、獅子目の「だが……」という言葉に首を傾げてしまう。
　そして獅子目も、なかなか二の句を継げずにいた。
「……どうか、されましたか？」
　獅子目は今一度、彼女の青い瞳を見抜いて告げた。
「だが、俺は高い身分も立場も欲しいとは思わない。俺が欲しいのは、自由と歌。それだけあれば、他は何も要らない……」
　彼の告白に、フランチェスカはしばし呆然とする。
　驚愕と混乱が彼女の心と頭の中を駆け巡り、言葉を返す事すら出来ずにいた。
　目の前で狼狽するフランチェスカの姿に、胸が締め付けられる想いの獅子目。
　しかし、この話はまだ続きがあった。
「だから我儘かもしれませんが、約束してくれませんか？」
「な、なにを、です……？」
　ショックで涙が零れるフランチェスカ。
　その涙が伝う頬を、獅子目は手を伸ばして指で拭った。
「今回与えられるその肩書は、俺を縛るものではなく、俺が俺の意思で貴女に力を貸すものであると。つまり、貴女の近くで守る事を可能にする、その為だけのものだと、ここで約束してほしい」
　それは、獅子目のスタンスを明確にするための宣誓でもあった。
　彼の真剣な表情、そして眼差しを目の前にして、この宣誓が獅子目なりの信頼の証だとフランチェスカは悟る。
　故に、フランチェスカは涙を拭うと深く首肯した。
「分かりました。私は獅子目さんを縛りません。それでも、私の窮地の際には必ず、貴方が駆け付けてくれると信じていますからね？」
　フランチェスカは獅子目が差し出した手を優しくとり、そっと両手で包み込んだ。
「獅子目さんが傍にいてくれたおかげで、私は救われました……」
　彼女は小さく呟いた後、名残惜しそうに席を立って持ち場へ戻っていった。
　獅子目はその後ろ姿を暫く眺めた後に、腰を上げて控室へ戻るのだった。