【星幽塔】第一階層　ウィッチ・ゴーズ・サジタリオ｜リアクション

【星幽塔】第一階層　ウィッチ・ゴーズ・サジタリオ

　鮫ノ口礼二郎はいつもよりちょっとだけ小綺麗な服を着てきた。
（まさか、一介の高校生が騎士号の叙勲とは。そんな大層なものを貰っていいものか……）
　彼もまた、勲章について戸惑いを隠せない。
　英雄などと呼ばれるのはこそばゆいし、鮫ノ口は自分にできることをしたまでと考えている。
　なにより、この勝利は戦いに参加した全ての者の協力と頑張りがあったこそだと強く思っている。
　故に、今朝までギリギリ悩みに悩みまくった。
　だが、戦勝記念祭の花形がいないとなると盛り上がりに欠けるだろう。
　彼は祭りを盛り上げる役として勲章を貰うことを決断し、与えられた役目を全うしようと決意したのだ。
「とはいうものの、俺よりもあの戦いで活躍した兵士たちに何からの栄誉を与えてほしいのだが……」
　そんなことをボヤいていた矢先のことだった。
「おお、隊長！　隊長じゃないですか！？　俺ですよ、トラヴィスです！」
　兵士のひとりに声を掛けられた。
　その口調からして、前回の戦いで鮫ノ口隊で奮戦した兵士のひとりだろう。
　ちなみに、鮫ノ口隊の兵士たちは隊長の鮫ノ口よりも年長者ばかりだ。
　兵士は駆け寄ると、鮫ノ口に小さな花束を手渡した。
「探してたんですよ、隊長！　式典が始まると渡せませんからね。これ、俺達――鮫ノ口隊から、隊長への祝いの花です！　こんなおっさん達からの花束なんて、嬉しくないでしょうけどね」
　突然の花束のサプライズに、鮫ノ口は花束と兵士を何度も見返した。
「い、いいのか？」
「なに謙遜してるんですか、隊長！　あんたがいなかったら、俺達は今頃、冷たくなって土の中で眠りこけてましたよ。隊長の采配が、俺達の命を救ってくれたんです。鮫ノ口隊の一員を代表して、隊長に礼を言わせてください！　ありがとうございました！！」
　半ば花束を鮫ノ口へ押し付けるように手渡す兵士トラヴィス。
　鮫ノ口の胸の奥がじんわりと熱くなってゆく。
「ありがとう、トラヴィス。気遣い、感謝する」
「いえいえ！　隊長は俺達の英雄です！　隊長が勲章を授かることは、俺達の名誉でもありますから！」
　その言葉に、はたと鮫ノ口は気付かされた。
　自分の中に騎士のイメージがないから、今後どのように振る舞えばいいのかはわからない。
　だが、こうやって自分を慕ってくれる兵士がいて、今後も彼らと友好関係を築いてゆければ、と思えた。
　ああ、ならば、俺が勲章を貰うことが鮫ノ口隊の兵士たちの名誉にもなるのではなかろうか？
「……そうかもな、トラヴィス。正直、まだ迷いはあるが、これからも一緒に頑張っていこう」
「はい、此方こそ！　あ、これ、俺の連絡先です。声を掛けてもらえれば、鮫ノ口隊の兵士たち全員を何処へでも招集させますよ！」
　トラヴィスの言葉は、本当にどこでも鮫ノ口と共に行動しようという強い意志が現れていた。
　鮫ノ口はトラヴィスと固い握手を交わした後、式典会場の控室へ向かうのだった。
「そういえば、大臣の処遇や取り調べはどうなったんだろうか？」