三不管ノスタルジア｜リアクション

三不管ノスタルジア

１５.屋上からの脱出・その１

　屋上に最初に到達したのはワーストの３人だった。
　地図と銃器を入手したこと。そしてガス管の細工による災害を引き起こしたことによる住民の行動操作によって屋上の経路は手薄になっていたことが大きい。

　「思ったよりあっけなかったなぁ？」
　煙草を解禁して満足そうに吸うジニーがそう２人に声をかける。
　「……仕上げだ」
　龍八は躊躇い無く火炎瓶を階下へ通じる隙間や穴に投げ込んでいく。

　時間差で爆発音、悲鳴、怒号、破砕音のカルテットが彼らの耳に飛び込んでくる。
　「うっわ、えげつねぇ。まさに【テロ屋】だな」
　彼の行動に思わず苦笑するジニー。ヨハンは相変わらず沈黙したまま香港の夜風を受けている。
　「……」
　ヨハンは視線で龍八に尋ねる。
　「いや、待ち伏せはしない。余計なリスクは背負う必要はない。今はな……」
　そう言って龍八は出現している渦へと向かう。
　「ゲームクリアっと」
　ジニーは九龍の夜空に煙草を投げ捨てて。赤い光点は静かに地上へと落ちていく。

　時刻は午前３時１０分。ワーストたちは静かに渦へと飛び込んだ。

　脱出成功：【草薙龍八】、【ジニー・劉】、【ヨハン・プレストン】

　続いて辿り着いたのは仄。単独行動ながらも脱出に対する徹底した対策が彼女の力となった。
　「簡単だったな」
　人と遭遇しにくいルートを辿った結果、暴漢などとの戦闘すら起こらなかったのだ。
　服や髪に付着した汚れや埃、ゴミなどをひとしき払う。
　「お、あれか……ま、退屈しのぎにはなったか」
　そう言うと、仄は青い渦へと飛び込む。

　脱出成功：【双葉仄】

　「はぁ、はぁ……」
　屋上近くの踊り場まで辿り着き、息を荒げているのは轟だった。
　ワーストたちが引き起こした騒ぎのおかげで荒事を避けることはできたのだが、先ほど降ってきた火炎瓶による火災やまた別箇所でのガス爆発に遭遇したのだ。
　「大丈夫ですか……？」
　煙に煽られパニックを起こし暴徒と化した住民たちから、同行している時子を守る為に庇った轟は群集にもみくちゃにされ、圧殺されかけたりと疲弊していた。
　ろっこん能力で変身することも考えたが無用なトラブルを抱える可能性が高い為に避けたのだった。
　「もうすぐゴールですから……」
　時計を確認しから、時子は屋上の扉を開く。香港の海の匂いが混ざった潮風が彼らを包む。
　「そうだね、やっと着いたかぁ」
　気が抜けたと言わんばかりに轟は大きく深呼吸をする。清涼な空気が轟の肺に入り、少しさわやかな気持ちになる。
　「あ……」
　屋上へと出た２人を出迎えたのは、１羽のヨタカだった。
　数少ない夜行性の種であるヨタカは時子の肩に乗る。
　「食べますか？」
　と、嬉しそうな笑みを浮かべて時子はクッキーを取り出してヨタカに話しかける。
　「本当に鳥好きなんだなぁ」
　時子の様子に素直に感心しつつ轟はそう呟くのだった。

　午前３時５０分。２人と１匹は脱出した。

　脱出成功：【風雲児轟】、【御巫時子】