三不管ノスタルジア｜リアクション

三不管ノスタルジア

１６.もう１つの脱出手段

　「……」
　天野の作った拠点に戻った６人は沈黙する。
　『ろっこん、使いましょうか？』
　小淋が震える文字で提案する。このままでは時間だけが過ぎてしまい、全員が脱出できないことを危惧してのことだった。
　「ううん、浅山さん。もう少し考えさせて」
　優華が気丈に振舞いつつ答える。創られた世界とはいえ眼前で友人が死ぬのは精神的にダメージが大きかった。
　「円のろっこんは発動していた。彼女のろっこんは運がよくなること。その上で１発の銃弾で即死。即死というのは苦しまないということ。普通、銃弾による頭部損傷は前頭葉の損傷などで即死しにくいはず……」
　ブリジットが自身の思考を全力で回転させる。それが彼女にできる一番の武器だった。滅多に当たらない彼女の推理だとしてもそれでも彼女は思考を止めない。
　「……あ！」
　座っていた椅子から立ち上がりブリジットは声を上げる。
　「彼女が望んでいたことは？」
　天野を指差すブリジット。
　「脱出ではなく真相の解明だね。もう少し丁寧に言えば、原因の解決かな。特にテオに呼ばれたのに対処ではなく脱出であることをいぶかしんでいた」
　問いに答える天野。
　「彼女の運がよくなるというのは万能かしら？」
　と、ブリジットは刀に問いかける。
　「いや、危険な行動を行うことで運が継続的に上がるだけだ。例えば複数の銃弾が来たときに幸運にも１発だけで済んだとかそういった類のはず」
　刀は彼女の能力を思い出しながら返答する。
　「じゃあ、銃弾が１発しかないのに即死したというのはどういうことになるかしら？」
　蛇那伊の方を向くブリジット。
　「ろっこんが発動しなかったか、もしくはそれが幸運であったということよね」
　と、蛇那伊。
　「そして、ろっこんは発動していた。と、彼女自身が言ってるわ。つまり、彼女にとって即死が幸運であったということよね」
　小淋を見つめるブリジット。
　こくり、と黙って頷く小淋。

　「ここから導き出されるのは、【死ぬことが脱出手段である】【彼女は脱出し、現実世界で原因と遭遇する】という幸運を手に入れたということ」
　ブリジットが自身の推理を纏める。
　そしてこれが彼女にしては筋が通っており、そして説得力のある答えだった。

　「……だからといって死んでいいわけじゃないけどね。そして私たちは脱出できるのかしら」
　ブリジットは苦笑して天野に時刻を確認する。
　「さてね……。努力だけはしてみようか」
　時刻は午前４時３０分。何処へ向かうにしても絶望的であった。

　そして彼らは互いに『死ぬ』という選択は取れなかったのだ。

　脱出失敗：【浅山小淋】、【尾鎌蛇那伊】、【逆巻天野】、【獅子尾優華】、【ブリジット・アーチャー】、【御剣刀】