古妖の昔語り～ちえの実を探せ！～｜リアクション

古妖の昔語り～ちえの実を探せ！～

Act_2-2　寝子島最北西の森内部【午後】

　昼間だと言うのに、背の高い木に囲まれた森の内部は、日の光をある程度通す程度で薄暗さに包まれている。
　そんな中を、探検隊の面々と、地域調査の二人が進んでいた。

【匂いの元へ】

　下心達が匂いの元へと向かった頃、天吏と湊面もまた、その匂いに気づきその場へと向かっていた。
「……なんだろ、香水？」
　嗅ぎ慣れない匂いには違い無いが、今まで嗅いだどの匂いにも当てはまらない以上、湊面にとっても判断の付けようが無かった。
「ていうより、何であんなに早いの、あの人……」
　匂いよりも目下湊面にとっての問題は、先を走る天吏の存在である。
　先ほどまでぽややんとしていた割には、天吏は匂いに気づくと同時に湊面をほぼ無視する形で走り出していた。
　多少の服の汚れを気にした湊面とは違い、そうした事に一切気にしない天吏は、深い森の中を一直線に走りぬける事で湊面よりも早く走っていたのだ。
「あぁ、もう。引っ張られるのは嫌なんだけどね……！」
　自らのペースを乱される事を嫌う湊面にとって、天吏の行動は予定外と言ってもいい。
　だが、ハンカチを借りた、という借りがある以上、こんな場所で天吏を見捨てるわけにも行かず、その後を追う形で湊面もまた走っていたのだ。

「……すごい。色々いる」
　走りながらも、天吏は周囲へと目を向ける。
　市街地や市街地近郊に生息する鳥や動物とは違い、人の手が入っていない森の中は、天吏にとっても興味がそそられる物があった。
　図鑑の端に載っているような鳥、まだ天吏も実際に目にしていなかった種類の動物、そうした一つ一つが天吏にとっても新鮮であったのだ。
「でも、先にあっち……取られちゃ見れない」
　刀達に話を聞いたのは何も自分達だけではない。
　それは、天吏が湊面に会ったことでも確信していた。
　三角の実を実際に見て、そして場所を把握する。今は匂いにより場所をある程度特定できるが、誰かに先を越されればその目的は達成できないのだ。
　だからこそ、天吏は自らの服が汚れる事も厭わず、森の中を駆けていた。

　――そうして、まだ誰も到着していない場所に、天吏は一番初めにたどり着く。
「……これ？」
　天吏の視界に映る光景は、予想以上に信じられない代物であった。
　現実であるのか、それとも自分が幻を見ているのか。
　――目の前には、話に聞く通りの腰までしかない小さく、そして特徴的過ぎる形を持った【三角の実の木】が存在していた。
「はぁ……はぁ……大、天使さん……早すぎ……」
　息を荒げながら、ようやく追いついた湊面もまた、三角の実の木へとたどり着く。
「……海神、アレ」
　未だ息の整わない湊面を前に、天吏は木へと指を指す。
「な、なんで――えぇ、本当にあったの……？」
　当然と言えば当然の驚きを湊面は木を見た事で、天吏へと見せる。
　女性の様な木、と言うよりも、本当の意味で女性の形をしている木が目の前にあるのだ。
　そして、さらに話の通りに、胸と思しき位置には、片側だけ色の違う【三角の実】が存在していた。
「……食べる？」
　場所と実の確認、天吏にとってはセンリとの話の中で聞いた事が本当であった事、そして実際に自分の目で見れたことでほとんど目的を達成している。
　実その物を食べる気の無い天吏は、そのまま発見した実をどうするか、湊面へと問う。
「え、あ……ど、どうしよ……」
　湊面にとっても、この実の発見はほとんど偶然と言ってもいい。
　そもそも、話だけは聞いていたが、これ自体を求めてここに来たわけではないのだ。
　加えて、確か話通りであれば妙な気持ちになる、とまである。
　そんな代物を食べるつもりが湊面にあるのか、と問われれば、当然ＮＯだ。
「じゃあ――」
　結局湊面が出した結論は、とりあえず収穫して持ち帰り誰かに食べさせてみる、と言ったものであった。
　そのために、実を取るべく湊面は歩きだしたのだが――