古妖の昔語り～ちえの実を探せ！～｜リアクション

古妖の昔語り～ちえの実を探せ！～

Act_0 センリの祠【探索前日・月夜】

【月夜の訪問者】

　ふわりと、緩やかな風にウェーブの髪をなびかせ、一人の女子生徒が祠の前に姿を見せる。
「……ここ」
　猫又川の端に建てられた祠を前に、大天使天吏はその周辺へと目を向ける。
　話に聞いていたはずのネコマタの姿はどこにも見当たらない。
　ここに来れば会えるだろうと踏んでいた天吏は、何か別の方法でもあるのかと少しばかり考えをめぐらせていく。
「何だろう……御剣と初島に聞いてきた、とか言えばいいのかな……？」
　とはいえ、突然会う為の方法を思いつけるはずも無い。
　知っている事といえば、事前に御剣刀と初島優から聞いた話くらいでしかないのだ。
　――だが、その二人の名前を口した直後、天吏の前にセンリが姿を現す。
「ほぅ。おんし、カタナとユウの知り合いかぇ？」
「……うん、そう」
　軽く首を縦に振り、天吏は目の前に現れたセンリへと返答する。
　センリそのものに驚いた様子は無い。
　だが、確かに生えている尻尾を目にし、人と猫の中間辺りくらいか、といった判定を天吏は頭の中で下していた。
「なるほど。だが、夜半に女子一人歩くのは感心せぬがな」
　少しだけ咎めるようにセンリは口にするが、その口調はあくまで心配と言った感情を多分に含ませている。
　上の空で危なっかしく歩く天吏を【見ていた】センリにしてみれば、そう思っても不思議では無い為に。
「ちえの実……話を聞きたいんだけど……」
　そんなセンリの心配を露知らず、天吏は自分のペースで話を進めていく。
「ほほ、なるほどのぅ。我の姿に動じず、そう来るか」
　楽しげにセンリは笑い、天吏の側へと近づく。
「……教えてくれる？」
「うむ、よい。だが、先に名を聞かせてもらおうかの」
　センリの言葉に従い、天吏は自らの名前と、そして【ちえの実】に対して聞きたい事をセンリへと口にしていく。

　――天吏の質問は二つ。
　まずは一つ目の質問である【ちえの実は人間だけしか食べられないのか？】と言った質問を天吏は口にする。
「ふむ……その辺りは我も知らぬな。じゃが、一つは猫が狙っておるゆえ、食べられぬ事も無いだろうが……」
　センリにとっては、話としてしか木の存在を知らない以上、この質問に明確に答えられる事は出来ない。
　だからこそ、四角の実を猫が狙っている事を踏まえた上で、センリなりの意見を天吏へと口にしていた。
「……なら、食べた人は見た事ない？」
　期待した回答は得られなかったが、天吏はそれを気にする事も無く、二つ目の質問を口にする。
「それであれば一度だけあるのぅ。とはいえ……我にもよくわからん反応ではあったが」
　センリが見た実は【丸の実】であり、昔話としてセンリに語った者がそれを目の前で食べたのを実際に見ている。
　――しかし、その効果の程はセンリにとってもよくわからない代物であったのだ。
「どういう事……？頭に効くって聞いてたけど……」
「さてのぅ。口はよう回っておったが、我には皆目見当もつかぬ事ばかり口にしておったのでな」
　雄弁に何かを語る様を見せてはいたが、それで頭が良くなったのか、と問われれば明確にセンリが答えられない。
　だからこそ、天吏への返答は曖昧なモノになってしまっていた。
「……不思議な実、だね」
「そうさな。我にもよくわからぬ、不可思議な実ではある」
　楽しげな笑み浮かべ、センリは天吏へと口にする。
「……うん、後はいいかな」
　センリに聞きたい事を全て聞き終え、天吏はそのまま帰路へと着く為に後ろへと振り返る。
「ならばテンリよ、また来るがよい。実を探すのであれば、見つけた時にでもな」
　帰路に着く天吏の側に、センリは【幽霊】を出現させ、無事を見守るべく共に同行させる。
　月明かりだけが照らす夜道を、天吏は何も語らぬ供と一緒に歩き出していた。

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