古妖の昔語り～ちえの実を探せ！～｜リアクション

古妖の昔語り～ちえの実を探せ！～

【食べてミル？】

　無事に丸い実を収穫できた後、四人は巨木の下にもう一度集まっていた。
「ふぅん……本当にあったとは、ね」
　感心するように、飛鳥は萌の手に持たれた実へと目を向ける。
　見た目はりんごに近い。だが、それ以上に見事なまでに真っ赤な実を前に、全員が興味を示す形で見ていた。
「それで、誰が食べてみるの？」
　そんな中で、全員へと声を掛けたのは歩美である。
　元々話していたように、歩美と飛鳥は食べるつもりは無い。
　ならば、必然的に食べるのは萌か結月のどちらかとなっていた。
「晴海先輩と歩美ちゃんは食べないって言ってるし、そうなるとあたしと結月ちゃんだよね？」
　当然のように、実を持った萌はその言葉を口にする。
　ここまで頑張ったのだから、それを独り占めして食べる、などというつもりは萌にはない。
　手のひらサイズの小さな実を半分にする形で、二人で分けて食べる、それが萌の提案だった。
「いいの、萌ちゃん？」
「あったりまえじゃん！まぁ、歩美ちゃんにも食べてもらいたいけどねー」
　妙な含み笑いと共に、萌は切り分ける為のナイフを持った結月へと実を渡し、歩美へと近づく。
「嫌よ。そんな得体の知れないモノ、食べる勇気なんてないわ」
「そうそう、それに僕にも必要は無い。なんたって賢者だからね、二人で分けて食べればいいさ」
　実そのものを食べるつもりの無い歩美に対し、飛鳥のそれはどのような効果が発揮されるのかを見たい、と言った事に重点が置かれている。
　こうして、昔話にあった伝説を前に、後は効果だけを確認すれば知的好奇心は十分に満腹になるのだから。
「はい、切り分けたよー」
　丁度半分に切られ、しっかりと皮もむかれた実を結月は萌へと渡す。
「……匂いとかは大丈夫だね」
　見た目は、本当にりんごに近い。
　だが、種らしきものは無く、実だけがしっかりと詰まっていた丸の実を前に、やや二人は怖気づく。
「うん……じゃあせーので食べよっか」
　こくりと萌が結月の提案に乗る意志を示し、首を縦に振る。
「せーの……！」
　――二人が一斉に実を口に突っ込み、一気にかみ締めていく。
「……どうだい？何か変わったことは？」
　興味深々とばかりに、飛鳥は二人へと感想を求める為に問う。
「……バナナ」
「……だねぇ」
　しゃきしゃきとしたりんごのような歯ごたえとあわせ、口の中に広がる味は【バナナ】その物である。
　おいしいかと聞かれれば、バナナなのだから美味しいのだろう。
「頭は？良くなった気がする？」
「ん、ん～……わかんない、かな……？」
　歩美に問われはするが、イマイチ反応悪く萌が答えを返す。
　飲み込んだ後にも、表面的には二人に変化は無い。
　ならば確かめてみる手は一つしかないと、飛鳥はそのまま一つの数学の式を口にする。
「余り難しいものじゃないけれど、まだ一年の君達は習っていない範囲のはずだ。どう、わかる？」
「それなら――！」
　本来であれば分かるはずの無い知識。
　習っていないはずの数学の式の答えを、二人はほぼ同時に口にする。
「え、あれ……？」
「すぐに解けた……ていうか、そんなの知らないってのに……！」
　驚きと同時に、本当に頭が良くなっている事に二人は驚きを見せる。
「参ったね。本当だったんだ、話は」
「……そのようですね」
　感心するように、飛鳥と歩美は驚きから喜びへと変化し、はしゃぐ二人の姿を見る。
「やった、やったよ結月ちゃん！」
「やったね、萌ちゃん！」
　――とは言え、こんな摩訶不思議な実だけでどうにかなる物なのか。
　疑問自体は拭えないが、実際に目の前で起きてしまった以上、歩美はそれを信じるより他にはなかった。
「ま、とりあえず僕の知的好奇心は満足できたし、良しとしようかな」
　事実は事実。
　疑うよりも実際に目にした事を、飛鳥は素直に受け止め、簡単な笑みと共に二人の姿を眺めていた。

　――無事に収穫を終えた四人は、そのまま帰り道を行く。
　楽しげな笑いと共に、新しく出来た【友達】と。