月の光が照らす晩。
猫又川はその光を反射し、二人の生徒の道を照らしていた。
「すまないな、初島」
御剣 刀が、川をさかのぼり、以前会ったセンリへと話を聞く為に祠へと向かっていた。
過去を生きた妖怪。もしそれが本当であるのなら、落神伝説の何かを知っているのではないか、そんな期待を胸に。
「俺も来たくてきてるからねー。その辺は――って、おわ! なんでまた、アレが出てるわけー!?」
驚くような声を上げ、
初島 優はその原因へと目を向ける。
じっと、こちらを見る【幽霊】
その正体を優が既に知っているとは言え、木の陰からこっそり覗くその姿を驚くなという方が無理であった。
「……相変わらずだな」
刀もそれに気づくが、特に動じる事は無い。
ただの【幻影】であるそれは、こちらの様子を伺うように見るが、別に害は無いのだ。
見た目は少々怖いが。
「中間テストもあるから、勉強の気晴らしにって思ってたけど……うぅ、もうちょっとちゃんと歓迎してくれないかなぁ……」
少し気落ちするように、優は刀と共に【幽霊】に見守られながら、川をさかのぼっていく。
「よぅ来たのぅ。歓迎するぞ」
祠に着けば着いたで、先ほどの【幽霊】を見せた張本人であるセンリは、二人を快く迎え入れる。
「いやー、アレって出さない事とか出来ないんですかー?」
「うむ、おんし等であれば別段構わぬのじゃがのぅ。害意を持って訪れる者であれば、わざわざ我が姿を現す理由はなかろう?」
カラカラと小気味よく笑い、センリは優へと語る。
「しかるに、先ほど【てすと】なる物を口にしておったの。それはなんじゃ?」
そして続けざまに、ぴくぴくと興味深げに猫耳を動かし、センリは二人に問う。
「そうですね……学力を測るもの、と言えば分かりますか?」
「ほぅ、なるほどなるほど……」
刀の説明に、少し考えるそぶりを見せつつ、何かを思いついたように二人へとセンリが向き直る。
「良かろう。カタナよ、おんしが望む話とユウにとっての都合のよい話、どちらにも当てはまる話をしてやろうか」
一つ呼吸を置き、センリはその口を開く。
――それは、どちらかと言えば民話寄りの話。
曰く、過去の落神が引き起こした一連の騒ぎの後に、異変の残滓として残った【ちえの実】なる物が、この島のどこかに存在する事。
そして、その実は三種類存在し、五月の一時期のみ三種類共に一つだけ、どこかの木で実を成す、と言った事をセンリは語る。
「知恵の実? 聖書に載っているアレと同じく?」
「さて、聖書とやらは知らぬが、こちらはどうやら様々な効果が現れるようじゃな」
刀の問いに、センリは曖昧な返答を返す。
「それはどの辺にあるんですかー!」
だが、胡散臭さは大きいが、そんな実があるのであれば一度くらいは口にしてみたい。
何より、そんな事で頭が良くなるのであれば、それに越した事はないのだ。
「ふぅむ……大分昔、それも聞いただけの話じゃ。本当にあるかも分からぬが、それでもよいのか?」
それでも構わない、と優は割と必死にセンリへと頷きを返す。
「では、そちらも語るとしようぞ」
艶やかな笑みを返し、センリは優と刀へと昔聞いた場所等の情報を伝えていく。
「……難しいな。ここはおそらく間違いないと思うが……」
刀がセンリの情報を書き留める形でノートへと書いていくが、その情報のほとんどが抽象的であったのだ。
その為に、刀と優が考えた上で持ち寄っていた地図とあわせ、ある程度場所の絞りこみを行う。
「ん~……でもこれだと探す範囲が広くなりそうだし、二人で探すよりも人を集めて探したほうがいいかもねー」
だが、幾つかに絞り込んだとはいえ、範囲としては島の各所を巡る形となる。
それを二人だけで探すとなれば、どうあっても手が足りない。
ならば、聞いた情報を伝える事で、共に探す仲間を集める事も出来るのではないかと、優は刀に話していた。
「分かった。初島の言うとおり、人を集める事にしようか」
刀もまた、優の意見に乗る形で答えを返す。
「決まったようじゃな。無事に見つけられたら、また我の元に来るがよい。その時は、話を聞きたいでな」
センリはこれを口にし、二人の帰路の無事を見届ける為に【幽霊】を出現させる。
なんとも言えない表情の優と刀に連れ従わせる形で、二人(と一人)は帰路へと付く事となっていた。
まずはご覧いただきありがとうございます。
PCより、御剣 刀様、初島 優様を登場させていただいた事、こちらにて感謝を述べさせていただきます。
今回のシナリオでは、ちえの実なる、実在するかどうかも怪しい代物を皆様に探していただきます。
中間テストに向けて勉強したくない方は探してみるもよし、ちえの実そのものに興味がある方はそちらを目的に探してみるのもいいかもしれません。
但し、見つけて食べてもどのような効果をもたらすかの確実は保証はありませんので、ご注意を。
○NPCセンリについて
寝子島都市伝説ツアー~猫又川の怪異~にて登場したNPCとなります。
100年より前から猫又川の突き当たりの祠に住んでいる古い妖怪であり、昔話や伝説関連にはやや詳しい面があります。
但し、知識としては【聞く】か【見る】かの情報しか持っていない為、語る話の真偽に関しては曖昧な部分が多々存在します。
○ちえの実の情報
センリの話により、以下の情報を事前にPCの皆様は取得されております。
▼基本情報
・ちえの実は三種類。
・五月の一時期のみ、全ての種類が一つだけ実をつける。
・食べる場合は早めに。
▼形と効果情報
・丸の形の木の実。食べた場合頭に効くらしいが、詳細な情報は伝わっていない。
・三角の形の木の実。食べた場合、妙な気分により気持ちが高まるらしいが、詳細な情報は伝わっていない。
・四角の形の木の実。猫が興味を持つらしいが、それ以外の情報は伝わっていない。
▼各実の木情報
【丸の実】
猫の喉にその木はある。
曲がりくねった形をしており、背が高く、枝の多いという特徴を持つ。
実は数多ある枝のどれかに成っている。
木そのものは背の高さと奇妙な特徴ゆえに誰の目にも止まる。
だが、枝は非常に折れやすく、登るにも枝そのものに触るのも難しい。
木に生えたどの枝を折っても実は効果を無くす為、知恵を使った収穫が必要。
探索エリア:【E12周辺】
【三角の実】
猫の鼻にその木はある。
女性の体の様な形の小さな木であり、丁度胸の位置に実は成っている。
木々が多く生える深き位置に生えており、他の木に混ざり探し辛いが、実は芳しい香りを放つ。
収穫する際には、やや勇気が必要。
探索エリア:【B5周辺】
【四角の実】
猫の口角にその木はある。
魚の骨のような形をした木ではあるが、水に漬かるように見え辛い位置に生えている。
実は、魚の頭に当たる箇所に成っている。
実が成る一時期のみ、猫達がこの実を狙う為、この木は大勢の猫により囲まれている。
収穫する場合は、猫に引っかかれても泣かない覚悟が必要。
探索エリア:【D7周辺】
○探索時の注意
1PCに付き、各三種類の内、一つの実のみを探索する事が出来ます。
GAを使用した場合は1グループと判断させていただき、1グループで一つの実を探す、と言った形となりますので注意してください。
それでは、よろしければご参加をお待ちしております。