古妖の昔語り～ちえの実を探せ！～｜リアクション

古妖の昔語り～ちえの実を探せ！～

【結月の挑戦】

「これ……なの？」
「すごいね……」
　萌と結月が、精一杯首を傾け、その天辺を見るべく上を見る。
　当然、飛鳥と同じ結果で見えはしないのだが。
「ふんふん、やっぱり君達も話を聞いてここに来たってわけだね」
　二人の後ろで、飛鳥は歩美へと、目的を聞く為に話しかけていた。
「そうです。私は食べませんけど」
　歩美の目的も、どちらかと言えばちえの実の効果ではなく、その物を調べたいという考えの飛鳥に近い。
　だからこそ、飛鳥は歩美を選び話しかけていたのだ。
「ハハッ、確かに。真偽も分からない、怪しい物には変わりは無いからね」
　笑顔ながらも、飛鳥が語る言葉には【それ】自体が怪しいと言う疑念が含まれる。
　食べるだけで頭が良くなる、そもそんな荒唐無稽な代物がこの島に本当にあるのかどうか、興味本位のみで飛鳥もまたここに来ていたのだから。
「晴海先パイ！調査完了したっす！」
　びしっと、敬礼する形で萌が結月と共に二人の下へと戻ってくる。
「ご苦労様。どう？何か見つけられたかな？」
「ここからじゃ何も……ですね。こんな高い木、初めてみましたから」
　萌と結月が見る限り、木そのものに登れない事は無いが、話の通りに枝は軽く体重をかけただけでも折れそうな程に細い事を。
　そして、もし途中で誤って落ちてしまった場合も考えれば、高さの関係も有り危ないかもしれない、と飛鳥達へと話していた。
「とりあえずもう少し周囲を回って探してみましょう。まずは実を見つけない事には始まらないわ」
　歩美の意見の元、萌と結月は再度巨木を確かめるべく、共に足を進める。
「僕はここで応援しているよ。三人共、頑張ってね」
　ひらひらと手を振り、飛鳥はそんな三人を観察するように、草が生い茂る地面へと腰を下ろしていた。

　――探す事小一時間。
　ぐるりと周囲を再度見渡した結果、やはり実はどこにも見当たらなかった。
　その為に、結月が一度試したいと萌と歩美に話し、巨木に足をかけていた。
「気をつけてね、香坂さん」
　萌と歩美は、そんな結月を見守る形で、落ちてきても大丈夫なようにその下に立つ。
「うん、頑張ってみるね」
　運動神経を取れば、萌と同程度を持つ結月が木へと登る役を買って出たのは、結月本人の希望でもあった。
　相談を持ちかけられた以上、真面目に取り組むべきである。
　そんな意志と共に、しっかりと巨木の幹を掴みながら、結月は上へと少しずつ登って行く。
「こっちは……ダメかな」
　普通の木であれば、ある程度登った段階で枝に掴まり安定する事が出来る。
　だが、この巨木の枝は、たとえ体重の軽い結月であったとしても支える事は難しいほどに細いのだ。
　――この内のどれか一本でも折れば、実の効果は無くなる。
　プレッシャーとしてこれほど重いものもないが、それでも結月は諦める事無く、一歩一歩注意深く登って行く。
「どうー？なにかありそー？」
　下から萌が、結月へと声を掛ける。
　登った距離は、大よそ巨木全体の二割にも満たないが、それでも下から上を見る景色とは違い、それぞれの枝を見渡すことが出来ていた。
「……ここだと、まだないかもー！」
　だが、結月が見渡す限り、この地点では実の存在は確認出来ない。
　丁度よく曲がっている幹に一度腰を下ろす形で、結月は下にいる萌へと顔を向け、返答を返していた。
「じゃあ、そろそろ降りてきて頂戴！お昼になりそうだからー！」
　歩美の声と同時に、くぅと、可愛らしい音が結月のお腹から聞こえる。
「うんー！今降りるねー！」
　とりあえず目的であった巨木は見つけられたのだ。
　ここまで登る事はそれほど苦では無かった為に、必要であればお昼の後にまた挑戦すればいい。
　気持ちを切り替え、結月は二人が待つ地面へと降りる為、再度幹へと足を掛けていく。

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