かくて世界は浮遊する｜リアクション

かくて世界は浮遊する

６.落ちた神の社にて（落神神社周辺、寝子島上空１０００メートル～）

　
　「おやおや、これはいったいどうしたことか」
　木の枝を手すり代わりにしながら、落神神社へと向かっていたのは大きな瞳が特徴的な２年生の晴海飛鳥である。
　浮遊状態という異変に遭遇しながらも、彼女自身は事態を楽しんでいるような笑顔を浮かべている。
　そんな飛鳥の目の前には断絶した遊歩道。そして、彼女と落神神社との間には多くの浮遊物があり、足元に地面は存在していなかった。
　「どうやら、浮遊した際に脆くなった地盤が崩れたみたいだけど」
　と、浮き島のようになってしまった落神神社を見つめながら彼女は思考する。
　「重力がない以上、墜落する恐れはないけど、さすがに抵抗はあるか」
　近くに浮いていた小石を軽く投げるとそのまま神社のほうまでスムーズに飛んでいく。
　「ふむ……」
　飛鳥が落神神社まで飛んでいくか決断しようとしていた時、彼女の頭上に影が差した。
　「ん？」
　見上げると彼女の数メートル上の高度で、ミニスカートの巨乳女子……雪原真白が浮遊した岩に着地していた。
　「やっほ～」
　真白のほうも飛鳥に気づき笑顔で手を振る。スカートの中身がちらちらと見えそうになってはいるが気づいていないようだった。下心がいれば喜んで写真を撮る構図である。
　「やぁ。君も落神神社へ用事かい？」
　飛鳥も手を上げて応える。
　「うん～。神社なら古い言い伝えなんかもあるかなーと思ったの。石碑とか古文書とかありそうだもん！」
　と、真白なりに考えた結果らしかった。
　「なるほどね。僕はちょっとお参りしようかと考えていたんだが。……この状態であちら側まで飛んでいくのは少し工夫したいな」
　荒れ放題の忘れ去られた神社との間の空間を見つめて飛鳥は言った。
　「そうだね～。足元ないのはもしも浮遊状態じゃなくなったときは怖いもん。ん～、飛ぶ方法もなくはないんだけど～」
　楽観的な真白が言葉を濁す。彼女のろっこん『テレポーテーション』はこういった場面では十分に効果を発揮するのだが、全裸になるという年頃の女子には致命的なデメリットもあった。屋外だからなおさらである。
　「飴でも舐めて、もう少し考えてみるか」
　飛鳥は鞄からのど飴を取り出して口に入れる。真白のほうにも飴を投げる。
　「ありがと～。こういうとき無重力って便利だねー」
　ゆったりと飛んできた飴をキャッチしながら真白は無邪気に微笑む。

　『そ』　『う』　『だ』　『ね』

　「……！？」

　返事をしようとした飛鳥は言葉が出ないことと、彼女の口から言葉の形をしたブロックが飛び出したことに驚く。それが彼女のろっこん『ソリッドボイス』だった。
　「わ、あぶないの～」
　会話をしていた為、ブロックは真白のほうへ飛んでいく。
　そして、そのブロックたちは真白の近くの浮遊した土塊などを破砕していく。人に当たると痛そうである。

　（これがろっこんというやつか）
　と、飛鳥は自身の能力を自覚する。

　『こ』　『ま』　『っ』　『た』　『な』
　思わず口から言葉をこぼすと、それはブロックとして飛んでいく為、他人とコミュニケーションが取れない。
　飛んでいったブロックは浮遊状態の影響からか何かに衝突しない限り、どこかへとまっすぐ飛んでいった。
　「飛鳥さん、こういうときはノートだよ～」
　と、飛鳥が飛ばしたブロックを読み取った真白が提案する。

　（なるほど）
　飛鳥は鞄から筆記用具を取り出しながら遊歩道の残骸を蹴りつけると、真白のいる岩まで飛び上がる。

　「何だか楽しそうね、あなたたち」
　そんな２人に冷ややかな声を浴びせかけたのは、クローバーのピアスと眼鏡が特徴的な長身の女子、桃川圭花である。
　「ん～？　楽しいよ～？」
　にこにこしながら、真白は言葉を返す。
　『君も落神神社に用事があってきたのか？』
　と、ノートに走り書きをする飛鳥。
　「別に用なんてないわ。あなたたち、神社に遊びに行くのはいいけど、ねこったーくらい見たら？」
　圭花は２人に刺々しく言葉を投げる。
　「何かあるの～？」
　鈍感な真白は毒舌な圭花の言い回しを気にせずに訊ねる。
　『見れば分かるということか』
　飛鳥は圭花を少し警戒しながら、携帯でねこったーにアクセスした。

　”【拡散】現在、浮遊した九夜山にいるもの同士で情報交換をしたい。携帯ににゃかいぷを導入できるものは導入して、奈良橋にアドレスを通知。できないものは後ほど、ねこったーを確認するように”

　九夜山にいるであろう寝子島の生徒たちが拡散させていたその書き込みの発信者は八神修だった。

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