かくて世界は浮遊する｜リアクション

かくて世界は浮遊する

　「やめなよ！」
　その声と共に、龍八と煉は地球の重力よりも強い力で地面へと縛られる。
　２人を地面に打ち据えたのは、新井米太郎の『似非ヒロイズム』。重力操作を行うろっこんである。
　争う２人を見かねて仲裁に入ったのだ。彼のろっこんは助けたいという思いで発動する。そこに害意はなかった。
　「なんでケンカするんだよっ。みんなで助け合って九夜山を地上に下ろそうよ？」
　目を逸らしながら米太郎は言葉を続ける。
　「その必要はない」
　米太郎を睨みながら龍八は答える。
　「他のヤツラが解決するだろう。俺は烏を叩きのめすことができればそれでいい。邪魔をするな新井」
　と、煉も米太郎を睨みつける。
　「僕は……」
　視線が苦手な米太郎は２人から顔をそらして言いよどむ。
　「偽善者が」
　龍八は軽蔑するように米太郎へ吐き捨てる。
　「偽善で、いいじゃない？」
　肩にカナリア化したままのラッセルを乗せた、金髪の少女、大天使天吏がふらりと現れる。どこか浮世離れした雰囲気の天吏である。
　「チチチチチ！（仲間を助けたり協力しあうことの何がいけねぇんだよ！）」
　ラッセルも力強く囀る。
　「友達を助けることを何がいけないのでしょう、だそうです……」
　と、ラッセルの言葉を翻訳しながら天吏に続いて来たのは御巫時子、黒髪の三つ編みが可愛らしい。そして、彼女のろっこんは鳥と意思疎通ができる。
　天吏と時子の２人は野鳥を中心に九夜山の動物たちの保護を行っていた。そこでラッセルも保護（？）されたようだった。
　「余計なお世話だ」
　煉はそう言い返す。彼はお節介な人間が苦手だった。
　ふわりと天吏は１歩前へと前進するように浮遊する。
　「無重力の世界では動物たちは繁殖できないの。空も陸も……そして水も。このままでは命が消えてしまうわ」
　と、誰に向けるわけでもなく天吏は語る。彼女はどこかずれていた。
　「命なんざ消えるもんだ。お望みなら今消してやろうか」
　龍八は悪意ある瞳を天吏へと向ける。米太郎のろっこんの効果は消えておりいつでも誰かに攻撃を加えそうな気配すらある。
　「……」
　それを煉が牽制するように睨む。
　「だ、だからそういうのやめろって……２人とも」
　と、米太郎。
　「……あ」
　何かに気づいたように天吏が上方にある木の１つの枝を指差す。と、同時に全員が一斉に動く。
　「ピピィッ（クローネか！？）」
　天吏と共に飛び上がるラッセル。
　「逃がすか！」
　煉は木刀を構え、烏の方向へ跳ねる。
　「穿てっ」
　『破空法』を煉に向けて妨害しようとする龍八。一番危険なのは煉と判断したようだ。
　「あーもー、お前ら！」
　米太郎が龍八と煉とどちらを止めるか迷う。
　「烏さんっ……」
　それぞれが距離を詰める中、偶然にも一番近い位置にいた時子が烏を抱きしめる。
　「クソッ……」
　『破空法』を回避した煉は振り上げた木刀を時子に振り下ろすわけにもいかず構えを解く。
　時子が抱きしめた烏は何をするわけでもなく大人しくしている。
　「クローネ……さん……？」
　違和感を感じた時子は尋ねる。
　「カァ？（俺っちはスケアクロウっていうしがない山烏でござんす）」
　ろっこん『鳥の囀り』で彼女は烏の言葉を理解する。
　「山烏……。クローネさんじゃない……」
　少し気落ちしたものの、彼女にとって守るべき鳥には変わらない。優しく羽を撫でる時子。
　「日本だとハシブトガラスとミヤマガラス」
　天吏が補足する。彼女自身は補足する意思があったかはわからない表情をしているが。
　「つまり、ハズレってことかな？」
　ひとまず争いが停止し、一安心する米太郎。
　「……さあ？」
　と、天吏がてきとうに返事をする。

　「……」

　龍八は腕組みをし、その場の全員とにゃかいぷに向けて言葉を吐く。それはわずかに苛立ちを含んでいた。

　「なぁ、俺たちはクローネと普通の烏を判別をする為の情報を持っていたか？」