かくて世界は浮遊する｜リアクション

かくて世界は浮遊する

１０.砂掛谷（寝子島上空１５００メートル～）

　太陽は傾き、空は赤く、夕暮れが近づこうとしていた。
　「これってクロの羽なのかな？」
　クローネのことをクロと呼ぶ円がそう訊ねる。目の前には砂地に刺さった黒い羽がある。
　『はねってふつうはじめんにつきささらないんじゃないかな』
　海がスケッチブックに書き込んで返事をする。
　「そうだな」
　と、刀はおにぎりを頬張りながら言う。
　「あ、いーなー。じゃなくて、これってどういうことだろう？」
　円はおにぎりを羨ましそうに見つめながら考える。
　「わからん。だが、これが原因なら手っ取り早い」
　端的に応える刀。
　『でも、はねがささっているのは、じめんだよね』
　首を傾げる海。刺さっているのがもれいびや鯰であれば分かりやすいのに、と海は思う。

　「地面に刺さったことでその一帯の神魂が暴走。結果、要石がずれて鯰が目覚めた。という仮説もある」
　にゃかいぷから修が仮説を提示する。
　「あくまでも現在得られた情報から積み重ねた推論に過ぎないがな」
　と付け加える。
　「寝子島自体が大きなもれいびなのかもね？」
　しおりがロマンチックなことを冗談半分に言う。
　「動植物のもれいびも存在する以上、あながち否定はできないな。そもそも日本は八百万の神や付喪神といった信仰も存在するからな」
　鋭二が補足しながら同意する。

　「ねぇ、あれ……」
　と、円が指を指す。その方向は砂掛谷の水枯れした部分であり、そこには巨大な空洞が地面に開いていた。
　「なんだ？」
　刀が海をお姫様抱っこして、空洞の上部へと移動する。海の『アクセラレイトライン』で高度や移動速度を細かく調整する為に２人で動いたようだ。
　「生臭いな」
　刀の呟きに海も頷く。
　そして周辺に浮かぶ土や砂の状態とその巨大な空洞を携帯で撮影し、にゃかいぷへと送る。

　「鯰か？　これ」
　と、にゃかいぷ経由の写真を確認して博美が言う。
　「まぁ、鯰じゃろうな」
　少し考えてから答えるのは薫子。
　「……三夜湖組は無事だといいが」
　心配そうに暦は呟いた。